借金中に生活保護を受けられる? 自己破産すべきか水戸の弁護士が解説
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平成30年6月、生活保護費を不正に支出したとして、水戸市は職員2名を懲戒免職したと発表しました。職員は受給者のひとりから生活保護費が少ないことを相談され、領収書を偽造するなどして不正に貸し出していたようです。
水戸市長は「再発防止に向けて早急に取り組む」と述べていることから、水戸市の生活保護行政の運営が厳格化されることも考えられます。また今後さらに、生活保護費の受給要件を正しく把握し、適切に受給することが求められることが推測できます。
生活保護を検討している方の中には「借金がある場合は生活保護費を受給できないのでは」と、誤解をしている方もいらっしゃるかもしれません。不正に受給することはもちろん問題がありますが、正しい知識を得て、適正な手続きを経ることが重要なポイントになります。
そこで今回は、借金と生活保護制度の関係、自己破産についても解説します。
1、借金と生活保護費受給について
借金がある方の生活保護費受給に関しては、さまざまな疑問があるのではないでしょうか。下記では、ひとつひとつ、それらの疑問を解消していきましょう。
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(1)借金があると生活保護費を受給できない?
結論からいえば、借金をしていても生活保護費を受給することは可能です。
ただし、借金の返済金に生活保護費を充てることは許されません。なぜなら、生活保護制度は「健康で文化的な最低限度の生活」を守るためのものであり、借金返済の援助が目的ではないからです。 -
(2)生活保護費受給中にしてはいけないこと
●借金の返済
繰り返しになりますが、生活保護費を借金返済に充てることは、制度上認められていません。生活保護費は国民の税金からまかなわれており、それを個人の借金返済に充てることは許されない行為だからです。
例外的に、ごく少額の借金であれば生活保護受給中の返済が許可されることもありますが、可否の条件は自治体によって異なります。勝手に借金を返済することは許されませんので、ケースワーカーへの相談が必須となります。
●新たな借金
生活保護受給中に新たに借金を作ることもやめましょう。借金は収入とみなされますので、生活保護費受給の打ち切り対象となる可能性があります。
もし生活保護費の受給中に新たな借金をしてしまうと、ケースワーカーから指導が入り、自己破産を含めて今後の対応を検討することになりかねません。また、新たな借金をした場合、生活保護費は打ち切りとまではならなくても減額の可能性が高まります。 -
(3)借金を放置してもよいのか
借金があっても生活保護費は受給できるが、借金を返すことができないとなると、借金は放置しておいたほうがいいのかと考える方もいるかもしれません。生活保護費は差し押さえが禁じられた財産ですから、債権者が法的手段に打って出ることは難しくなります。
しかし、放置しても借金が減ることはありません。また、遅延利息などで借金が増えていくおそれもありますし、倫理上の問題もあります。生活保護受給者に対する借金の督促は可能ですから、これまで通り債権者からの厳しい督促が続くことは十分考えられます。
したがって、生活保護を受給する前に、まず借金を整理する方法を考えていく必要があります。
2、借金を整理する4つの方法
生活保護費を受給しつつ借金を清算するには、「債務整理」を行う必要があります。
債務整理には次の4つの方法があります。
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(1)任意整理
裁判所を通さず、債権者と個別に話し合うことで、利息の減額や返済期間の延長を交渉して借金を返していく方法です。返済期間を延長できれば月々の返済負担も軽くなりますが、安定収入が前提となります。
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(2)特定調停
簡易裁判所に、債務の減額をしたり利息の免除や軽減を行ったりするよう、調停を申立てる方法です。裁判所は債権者(貸主)との話し合いを仲介し、合意成立のために働きかけます。
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(3)個人再生
法定の範囲内で減額した負債額を、原則3年間で返済する再生計画を立て、裁判所に提出します。これが認められると計画に沿って返済していきます。
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(4)自己破産
債務の返済ができなくなった人が、裁判所に申立てを行って財産を清算する手続きをいいます。自己破産の手続きにおいて免責が認められると、借金を返済する必要がなくなりますが(罰金などは除く)、そのかわり財産も処分しなければなりません。預貯金だけでなく家や車などの高額な資産価値がある財産も処分の対象となります。
このうち、自己破産以外は、返済額を減らしたり返済方法を変更したりすることで、債務者の負担を軽減し、継続して借金を返済していく方法です。したがって、一定の返済能力がある方を対象としていますので、生活保護費の受給を検討するほど生活が困窮している方には適していない、生活保護制度の趣旨になじまない制度といえるでしょう。
しかし、自己破産は、原則として保有の財産を処分する代わりに借金をゼロにする方法ですので、借金の返済は不要になります。つまり、自己破産の手続きが完了すれば、生活保護費受給に支障がなくなるといえるでしょう。
なお、自己破産をした後でなければ生活保護費を申請できないかといえば、そうではありません。通常、自己破産の手続きが完了するまでには申立てから3か月~6か月ほどかかりますので、その間に生活保護費を受給できなければ困窮してしまいます。そのため、生活保護費受給決定後に、福祉事務所から自己破産をすすめられることも考えられます。
3、自己破産のメリット・デメリット
自己破産をどうしても避けたいという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、生活を立て直す一案として、自己破産についての知識を深めておくことは大切です。
ここでは、自己破産についてのメリット・デメリットを解説します。
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(1)自己破産のメリット
●借金がゼロになる
最低限の財産は手元に残しておけるため、無一文になるわけではありません。また、借金は免責されますので、取り立てや返済の悩みから解放されることになります。
●生活の早期立て直し
自己破産をしていれば借金返済の必要もなくなりますので、生活保護を活用しながら、生活の早期立て直しに期待がもてます。 -
(2)自己破産のデメリット
自己破産にはいくつかのデメリットがありますが、「本当に自分にとってのデメリットなのか?」を確認してみる必要があります。
以下、自己破産の主なデメリットです。
●金融会社のブラックリストに載る
個人信用情報機関に記録が残ることによって、5~7年ほどはクレジットカードの利用やローンを組むことなどができなくなります。
●一定の職業に就けない
破産手続き中は弁護士、税理士などの士業、生命保険外交員、警備員といった一定の職業に就くことができません。しかし手続きが終われば復帰することが可能です。
●官報に情報が載る
自己破産の事実は官報に掲載されますので、周囲に自己破産を知られてしまう可能性があります。 -
(3)その他の方法
生活保護を申請する前に、自治体の制度を利用することも選択肢のひとつです。
たとえば、生活福祉資金貸付制度では、低所得者の方などを対象に、生活再建までに必要な生活費用や教育支援資金などの貸し付けを行っています。
水戸市の場合、連帯保証人がいれば無利子で、連帯保証人がいなくても年1.5%の低金利で借りられます。条件があり、誰でも借りられるわけではありませんが、確認してみる価値はあるでしょう。
他にも、生活困窮者自立支援制度があります。これは、生活保護受給には至らないけれど経済的に困窮している方を対象にした支援や相談が実施されています。茨城県のホームページに相談窓口が掲載されていますので、まずは相談されてみるのがよいでしょう。
4、まとめ
今回は借金と生活保護の関係、自己破産について解説しました。借金で生活に困窮している方は、まずは自治体の窓口に相談してみるといいでしょう。
なお、自己破産の手続きは自分自身でもできますが、裁判所への申立てや、債務額の計算、申立ての書類の準備などは、一般の方が行うには煩雑な作業となります。また、抱えている借金の額や状況によって、何が適切な対処法かは変わってきます。ご自身にとっての最適な解決策を知るためにも、債務整理の知識のある弁護士に相談されることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所水戸オフィスでも、借金問題の経験豊富な弁護士が随時ご相談をお受けしています。借金問題を解消し、生活を立て直すために、ぜひ一度ご連絡ください。
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