接近禁止命令とは? 保護命令制度や申し立ての方法を弁護士が解説

2020年05月15日
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接近禁止命令とは? 保護命令制度や申し立ての方法を弁護士が解説

夫のDVに耐えかねて離婚を考えている方のなかには、現状の苦しみだけでなく、離婚後の不安に悩まれている方も少なくありません。
水戸市では、ホームページ上で水戸市配偶者暴力相談支援センターの開設を公表しています。DV被害にかかる相談や離婚後の対策に関するアドバイスも受けられるので、まずは誰かに聞いてもらいたい……という方は参考にされるとよいでしょう。

また、DV加害者のなかには、離婚後も復縁を迫ったり、自宅や勤務先の周辺をうろついたりするケースもあるため、平穏な生活を送るには何らかの対策をする必要を感じている方もいるでしょう。

そこで本コラムでは、離婚後の対策として覚えておきたい「接近禁止命令」について、効果や申し立ての方法等を水戸オフィスの弁護士が解説します。

1、接近禁止命令とは

DV被害に遭っている、またはDV被害に耐えかねて離婚しても、つきまといや脅迫によって重大な危険が発生するおそれがあります。そこで、DV防止法(正式名称:配偶者からの暴力の防止および被害者の保護に関する法律)にもとづき申し立てをおこなうことで、裁判所は「被害者に近づいてはならない」という接近禁止命令を下すことができます。

接近禁止命令とは保護命令のひとつです。
保護命令には次の5つがあります。

  • 接近禁止命令
  • 電話等禁止命令
  • 子への接近禁止命令
  • 親族等への接近禁止命令
  • 退去命令


接近禁止命令は、ほかの保護命令を下すための根幹となるものです。
電話等禁止・子への接近禁止・親族等への接近禁止は、接近禁止命令が下されている場合にのみ適用されるので、独立して申し立てることはできません。

2、接近禁止命令の効果

裁判所が接近禁止命令を下した場合、どのような効果が期待できるのでしょうか?

  1. (1)接近禁止命令によって禁止される行為

    裁判所が接近禁止命令を下した場合、相手方は次の行為を禁じられます。

    • 申立人の身辺をつきまとう
    • 申立人の住居や勤務先の付近を徘徊(はいかい)する


    接近禁止命令が下されているのに、申立人の自宅を訪ねて復縁を迫る、「会ってくれないから」といって自宅・勤務先などの周辺で待ち伏せする、などは命令違反となり、罰則が科せられます。

  2. (2)接近禁止命令の有効期限

    接近禁止命令の効果は、発令から6か月間です。
    6か月を超える接近禁止命令を求める場合は、再び接近禁止命令の申し立てをすることになり、その必要性について再度の審査がおこなわれます。DVの加害者といっても「永久に近づいてはならない」という命令は下せないため、接近禁止命令の効果が持続している間に、必要に応じて引っ越しをするなど対策を講じる必要があるでしょう。

  3. (3)そのほかの保護命令の効果

    接近禁止命令は、単体では十分な効果が期待できないこともあります。
    そこで、保護命令の制度では、接近禁止命令の実行を確保する目的で申立人への接近だけでなくほかの行為も禁じています。

    接近禁止命令とともに設けられているほかの保護命令の効果も確認しておきましょう。

    ●電話等禁止命令
    電話等禁止命令が下されると、相手方は次の行為が禁止されます。

    • 面会の要求
    • 行動を監視している事項を告げる
    • 著しく粗野・乱暴な言動をする
    • 無言電話や連続した電話・FAX・電子メールの送信
    • 夜間の無言電話や連続した電話・FAX・電子メールの送信
    • 汚物など不快な物を送付する
    • 名誉を害する事項を告げる
    • 性的羞恥心を害する事項を告げるまたは文書や図画の送付


    ただし、申立人への行為が禁止されるだけで、電話等禁止命令だけでは、子どもや親族などへの行為は対象にはなりません。また、親族の訃報や子どもの急病を伝えるなどのやむを得ない事情がある場合は命令違反に該当しません。

    ●子への接近禁止命令
    申立人と同居する未成年の子どもの身辺をつきまとう、子どもの住居や学校などの付近を徘徊する行為が禁じられます。子どもが15歳以上の場合は子ども自身の同意が必要になります。

    ●親族等への接近禁止命令
    申立人の親族などの身辺をつきまとう、住居・勤務先の付近を徘徊する行為を禁止します。申し立ての際には、対象者の同意が必要です。

    ●退去命令
    申立人と相手方が同居している場合、引っ越しの準備期間として相手方を退去させ、その間の住居付近における徘徊を禁止します。退去命令の効果は2か月間に限られます。

3、接近禁止命令を申し立てるための条件

接近禁止命令の申し立てが認められるためには、条件が必要です。
下記をチェックしておきましょう。

  1. (1)申し立てが可能な人物であるか?

    接近禁止命令の申し立てができるのは、DV被害に遭った被害者本人だけです。
    親族などが代理で申し立てることはできませんが、弁護士による代理は可能です。

  2. (2)申し立てに必要な3つの条件を満たしているか?

    接近禁止命令の申し立てには、次の3つの条件をすべて満たしている必要があります。

    • 申立人と加害者が婚姻・事実婚・同棲関係のいずれかにある、またはあったこと
    • 婚姻・事実婚・同棲関係が継続している間にDV被害があったこと
    • 将来、暴力によって生命や身体に重大な危害を受けるおそれがあること


    この条件に照らすと、次のような状況は接近禁止命令を申し立てることはできません。

    • 加害者とは交際中で同棲もしておらず、いわゆる「デートDV」の被害を受けていた
    • 関係を解消したあとに暴行や脅迫がはじまった
    • 危害が予想される具体的な事実はないが「念のため」の対策と考えている


    これらの状況は、DV防止法による保護命令で対処するのではなく、暴行や脅迫の事実を根拠に刑事事件としての対処を検討するべきでしょう。

4、接近禁止命令を申し立てる場合の流れ

接近禁止命令は、次の流れにそって申し立てることになります。

  1. (1)関係機関への相談

    DV被害に遭っている事実を、配偶者暴力相談支援センターまたは警察に相談した事実が必要です。もし事前の相談事実がない場合は、DVを受けた状況などを記載した宣誓供述書を作成し、公証人役場で認証を受けておく必要があります。

  2. (2)接近禁止命令の申し立て

    申立人もしくは相手方の住居地、またはDV被害が発生した場所を管轄する地方裁判所に申し立てをします。水戸市に在住であれば、水戸地方裁判所が申し立て先になります。

    主な必要書類は、以下の通りです。

    • 申立書
    • 婚姻関係があれば戸籍謄本と住民票
    • 婚姻関係がなければ同棲していた事実を証明する資料
    • DV被害を受けていた写真・医師の診断書など証拠資料
  3. (3)申立人の面接

    申し立ての当日または直近の日に、申立人の面接がおこなわれます。保護命令は緊急性が高いケースが多いため、ほかの申し立てに優先して審査されます。

  4. (4)相手方の審尋

    おおむね申し立ての日から1週間前後の期日で、相手方に裁判所への出頭が求められ審尋がおこなわれます。

  5. (5)接近禁止命令の発令

    相手方の審尋がおこなわれ、必要と判断されれば当日中に接近禁止命令が発令されます。指定の期日に相手方が出頭しなかった場合は、書留送達によって相手方に決定書が送付され、接近禁止命令の効果が生じます。

    接近禁止命令は緊急性が高い事案が多いため、比較的、迅速に発令される体制が整っています。ただし、接近禁止命令が必要な状況を合理的に説明できていない、DVの被害程度が軽く接近禁止命令の必要性が薄いといったケースでは、発令までに時間を要することもあります。

    迅速な発令を望むのであれば、まず弁護士に相談することをおすすめします。離婚問題に経験豊富な弁護士であれば、証拠集めや書類準備を的確に進めることで、より早い解決に向けて働きかけます。

5、相手が接近禁止命令に違反した場合

相手方が接近禁止命令に違反して、申立人の周辺をうろつく、自宅や職場の付近で待ち伏せをする、などの行為があれば、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。

相手方による違反があった場合は、決して個人で対応しようとせず、すぐに警察に110番通報しましょう。警察がすでに接近禁止命令を把握していれば、相手方は命令違反の疑いで現行犯逮捕されます。

また、DV被害について警察に相談すると、警察官を現場に急行させるために、指定した携帯番号の登録をしてくれることがあります。指定した電話番号から110番通報すれば事案の概要などを伝えなくても迅速な対応が可能になるため、ぜひ相談してみてください。

DVの加害者が接近禁止命令に違反して接触してくるケースは、重大な危害が加えられるおそれがあるので、常に携帯電話を持ち歩き、すぐに110番通報ができる体制を整えておくことをおすすめします。

6、まとめ

配偶者から暴力・脅迫などのDV被害を受けている場合は、裁判所に申し立てることで接近禁止命令をはじめとした保護命令を下してもらうことが可能です。申立人への接近が一定期間に限って禁止されるほか、しつこい電話や連続したメール、子ども・親族などへの接近も禁止されるので、危害の防止に役立つでしょう。

接近禁止命令の申し立ては、関係機関への事前相談があれば比較的にスムーズなので、ご自身で対応することも可能です。ただし、接近禁止命令の必要性が薄い場合や再度の接近禁止命令であれば、迅速に発令されないケースもあります。

確実な接近禁止命令の発令が下り、一日でも早く安心して暮らせるために、まずは弁護士への依頼をおすすめします。

DV被害に遭って配偶者・元配偶者に対する接近禁止命令を発令させたいのであれば、ベリーベスト法律事務所・水戸オフィスにお任せください。
DVに関するトラブルの解決実績を豊富にもつ弁護士が、迅速な接近禁止命令の発令に向けて全力でサポートします。DV被害者に代わって裁判所に申し立てができるのは弁護士だけです。より確実に、より迅速に接近禁止命令を発令させたい方は、まずはお気軽にベリーベスト法律事務所 水戸オフィスにご相談ください。

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