夫の失業は、離婚が認められる理由になるのか? 水戸の弁護士が解説
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配偶者の失業は、ご本人だけでなく、その家族にも大きな打撃を与えます。
特に、夫が働いて、妻が専業主婦だった場合には、途端に収入を失うことになってしまいます。また妻側が働いていたとしても、生活が苦しくなることに変わりはありません。
そのような場面でも、うまく再起が図れればよいのですが、失職という家庭状況の変化が夫婦仲にまで影響を及ぼすこともあります。今まで頼りがいがあった夫が、再就職などの意欲もなく、家事もせずに自堕落な生活を送っていたとすれば、夫婦関係を続けるのが難しいと思ってしまうこともあるでしょう。
茨城県の失業に関する動向をみると、令和2年度の雇用保険失業給付の受給資格決定件数は、前年に比べて14%増加しています。(茨城労働局の「県内の雇用情勢の概況」より)。このような結果となった理由は、新型コロナウイルス感染症の流行が考えられます。配偶者が失業してしまったという方も、増加傾向にあるといえるでしょう。
そこで、今回は、夫(または妻)の失業を理由に、離婚をすることができるのかについて解説します。
1、夫が失業したとき、保険や今後の生活はどうなるか
夫から突然、「失業した」と言われたら、今後の生活への不安が膨らむでしょう。焦ったり、落ち込んだりしてしまうのも当然です。ただ、今後のことを考えなければなりません。一呼吸おいて、冷静になりましょう。
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(1)収入など現状を把握し、今後を話し合う
まず、今後の収入がどうなるかを考えてみましょう。妻側も働いていて、家族をある程度は養えるほどの収入があれば問題はありませんが、専業主婦やパート勤務で大きな収入はない場合、問題となります。
まずは、夫がどうして失業したのか、つまりリストラされてしまったのか、自主的に退職したのか、話を聞いてみましょう。また、適切な時期に、再就職のことも含め、話し合いをし、計画を立てていく必要があります。 -
(2)失業保険を申請する
労働者が失業した場合には、その労働者は、失業保険給付を受けることができます。
失業保険給付の額は、年齢や雇用保険に入っていた期間、退職の理由(自己都合か、会社都合か)などによって決定されます。失業保険の基本手当を受けられる日数は、最短で90日間、最長で360日間です。
失業保険の支給を受けることができる期間は、離職日翌日から1年間となっています(原則)。つまり、この期間を過ぎてしまったら、基本手当の支給をうけることができる日数に満たなくても、その後の手当ては支給されません。
そのため、失業手当の申請をする場合には、なるべく早めにしてもらうようにしましょう。 -
(3)健康保険(社会保険)を選ぶ
妻や子どもが夫の勤務先の健康保険の扶養に入っていた場合、今後加入する健康保険については3つの選択肢があります。
- ①夫の元勤務先の健康保険の任意継続をする
- ②国民健康保険に切り替える
- ③夫以外の家族の健康保険(国保以外)に入る
いずれの選択肢が保険料を最も節約できるかは、退職時の給与等にもよるので、具体的な事案ごとに検討が必要です。
2、失業は「離婚事由」になるか?
再就職など今後の計画を立てても、就職活動がうまくいかず家族がぎくしゃくする、ということもあるでしょう。修復できないほど夫婦仲が悪化していると感じ、離婚が頭をよぎる方もいらっしゃるかもしれません。配偶者の失業を理由とした離婚は可能なのでしょうか。
解説します。
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(1)離婚事由とは?
夫の失業で夫婦関係にも悪影響が生じており、「修復が難しい、離婚したい」と思った場合にはどうすればいいのでしょうか。
夫婦での話し合いの結果、穏便に離婚ができれば問題ありませんが、問題は、夫側から「俺を見捨てるなんて許さん!」などと言って離婚を断られてしまった場合です。
民法では、このような一方の配偶者の意思に反しても、離婚をできる場合が定められています。以下に引用する、民法第770条1項各号に定められている事由がそれに当たります。これを、「離婚事由」や「離婚原因」と呼びます。民法770条1項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
- ①配偶者に不貞な行為があったとき。
- ②配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- ③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
- ④配偶者の強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
このように書くと、「裁判所に訴えるなんて、大ごとにするつもりはない…」と思う方もおられるかもしれません。
しかし、離婚の話し合いの段階でも、離婚事由があるか否かについて、あらかじめ検討しておくことは非常に重要です。
なぜなら、たとえば相手が財産分与や慰謝料の支払いなど、一定の条件のもとであれば離婚に応じると交渉してきた場合、それを受け入れるかどうかは、離婚訴訟をした場合にどのような結果になる可能性が高いか、と比較する必要があるからです。
すなわち、もし離婚訴訟で勝訴(つまり離婚が認められる)の可能性が高ければ、相手が条件を釣り上げてくるのであれば、訴訟に持ち込めばいいので、その条件を蹴る方向で考えることになります。
反対に、離婚訴訟で敗訴(つまり離婚が認められない)の可能性が高ければ、ある程度相手の出す条件を受け入れざるを得ないということにつながります。 -
(2)夫の失業が直接的に離婚事由となる可能性は低い
さて、ここで改めて民法770条1項を見てみましょう。「失業」は、離婚事由とはなっていません。ただ、「失業した」というだけでは、離婚は難しいのが現状です。
しかし、失業したことによって、夫婦関係が悪化したと認められれば、離婚できる可能性もあります。
3、自主退職した場合や再就職の意思がない場合は、離婚事由が認められる可能性も
失業が離婚事由として認められるか、それを確認するときに注目したいのが、民法770条1項5号です。ここには、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」とあります。
つまり、この条文は、「浮気や生死不明などの事情がなくても、だれがどう見ても夫婦としてやっていくのが難しいという場合には離婚できますよ」と認めているのです。
したがって、夫が失業したことによって、夫婦仲が修復不能なほどに悪化してしまった場合、離婚が可能です。
たとえば、次のような例が考えられます。
- 一家の大黒柱であった夫がさしたる理由もないのに退職し、その後家庭が火の車であるのにそれを顧みず、長年再就職しようともしない場合
- 失業してしまった夫が、失業によるショックや生活リズムの変化によるストレスによって、妻に対して激しくモラハラをするようになった場合
そのほかにも、個々の事案によっては離婚できる可能性があるので、この例だけで判断するのではなく、実際に弁護士へ相談することを検討しましょう。
4、離婚手続きの進め方
いよいよ離婚するとなった場合には、さまざまな手続きをしなければなりません。ここでは最も一般的な流れについて、見ていきましょう。
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(1)交渉する
まずは、相手が任意に離婚に応じてくれるように、よく話し合います。
弁護士を通じて交渉する場合は、内容証明郵便で意思表示をしたり、弁護士が直接相手と話し合ったりします。
交渉によって離婚が成立する場合には、離婚の際の取り決め(財産分与や養育費など)について、離婚協議書を作成し後々紛争にならないようにしておきます。離婚協議書は、公正証書によって作成することも可能です。 -
(2)離婚調停を申し立てる
お互いの意見が平行線で交渉が決裂してしまった場合、家庭裁判所に対して、離婚調停を申し立てることで手続きを進めることができます。
なお、離婚調停を経なければ、離婚訴訟を提起することはできません。
離婚調停も、話し合いという意味では交渉と同じですが、裁判官や調停委員など、中立の第三者が間に入って、お互いの妥協点を一緒に検討してくれますので、調停で決着がつくことも多くあります。
ただし、調停委員や裁判官はあくまで中立であり、当事者の一方に有利に取り計らうことはありませんから、少しでも有利に進めたいという方は、弁護士に相談するのがおすすめです。 -
(3)離婚訴訟を提起する
調停でも話がまとまらなかった場合には、最後の手段として離婚訴訟があります。
先に述べたように、離婚訴訟においては離婚事由が認められるかが勝負です、訴訟は調停とは違い、話し合いではありません、有利な証拠を持っているか、その証拠に基づき、裁判官に対して説得的な主張を展開できるかが勝負になってきます。
なお、裁判中に和解をすることによって、離婚が成立することもあります。
5、まとめ
今回は、夫が失業してしまった場合の対応や、離婚を決意した場合の流れについて解説しました。失業が原因で夫婦関係の維持が難しくなってしまった場合、それらの問題に立ち向かうには大きなストレスを感じることも多いでしょう。
そのようなストレスは、今後の見通しをはっきりすることができれば、軽減できるかもしれません。
弁護士に相談した場合、配偶者の失業がきっかけで離婚したいと思った方に向けて、法的に的確なアドバイスが可能ですから、離婚できるかどうか、離婚した場合どのようなせいかつになるのかなど、今後の見通しを明確にすることができます。
個々の事案によって最善の策は異なりますので、まずは一度ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています