熟年離婚で知っておくべきことは? 生活費や年金はどうなる?
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厚生労働省が発表している「平成30年 我が国の人口動態」によると、同居期間35年以上で離婚をしたいわゆる「熟年離婚」の割合が増えていることがわかっています。なお、水戸市によりますと、平成28年の同市における離婚件数は457件でした。詳細なデータはないものの、この数値には全国的に増え続けている「熟年離婚」も含まれていると考えられます。
熟年離婚は夫婦それぞれの新しい人生に向けた出発点というポジティブな見方もできますが、離婚には財産分与や年金分割などお金を中心に夫婦間で決めるべきさまざまな問題が多々生じます。特に熟年離婚に至る世代は若年層と比較してそれなりに財産が形成されていることが多い一方で、年齢的に今後の大幅な大幅な収入増が見込みにくいものです。したがって、お互いに生活費を確保する必要があるため、お金の問題は非常にシビアなものとなります。
本コンテンツでは、熟年離婚を検討する際にぜひ知っておいていただきたい点を、水戸オフィスの弁護士が紹介します。
1、離婚原因には何がある?
離婚は結婚と同様に、夫婦間で合意さえあれば自由にできます。しかし、結婚と異なり離婚では配偶者が裁判で相手方に対して一方的に離婚の訴えを求めることができる離婚原因を定めています。
それでは、民法第770条に定める離婚原因、「法定離婚事由」を具体的にみてみましょう。
- 配偶者に浮気などの不貞行為があった場合
- 正当な理由なく同居しない、生活費を渡さないなど、配偶者に悪意の遺棄があった場合
- 配偶者の3年以上生死不明の場合
- 配偶者の強度の精神病にかかり、回復の見込みがないと認められる場合
- その他、配偶者に暴力行為や浪費壁など婚姻関係を継続し難い重大な事由が認められる場合
別の見方をすれば、離婚をしたくても相手方にその意思がなく、離婚原因がない限りは裁判で離婚の判決を得ることは難しいということになります。したがって、「会話が弾まないのにずっと家にいる」、「定年後の趣味が合わない」、「子育ても終わったし自分の人生を歩みたい」などという理由は単なる価値観の相違や性格の不一致とされ、離婚原因と認められる可能性は極めて低くなります。
また、配偶者が上記のいずれかに該当し離婚の原因を作った「有責配偶者」であっても、裁判所が婚姻関係を継続することが妥当と判断した場合は離婚の訴えが認められないことがあります。
2、離婚するための4つの方法
熟年離婚に限らず、離婚では親権、慰謝料、財産分与、年金の分割、あるいは離婚そのものに合意するかなど夫婦間でさまざまな離婚の条件を決めなくてはなりません。真っ向から互いの理解が対立するテーマがほとんどですから、場合によっては家庭裁判所など第三者に入ってもらうことも検討しなくてはならなくなることがあるでしょう。
家庭裁判所による介入の有無および介入の方法によって、離婚の方法は4つに分けられます。
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(1)夫婦での協議
離婚に関する条件などを基本的に夫婦間で話し合い、合意に至れば役所に離婚届を提出し終了します。場合によっては親族などが間に入って調整することもあり得ますが、費用もかからず、裁判所などに赴く必要もなく、もっとも簡単な離婚方法といえます。このためか、厚生労働省による「離婚に関する統計」(平成21年度版)によれば平成20年の離婚全体の87.8%が協議離婚です。
ただし、弁護士や裁判官などの離婚に関する専門職でもない限り、夫婦はお互いに離婚に関する知識が不足していることが一般的です。このために、離婚条件についての話し合いが不十分であったり、夫婦の一方に対して不当な条件としてしまったりすることも珍しくありません。また、十分な話し合いをしたとしてもその内容を公正証書などで残していないため、離婚後の財産分与や年金の分割が約束したとおり履行されない事例もあります。 -
(2)調停
どうしても夫婦間での話し合いで離婚に向けた結論を得られない場合は、家庭裁判所へ調停を申し立てることになります。平成20年における調停による離婚は、離婚全体の9.7%を占めます。なお、日本では離婚について「調停前置主義」がとられており、調停を経ることなく裁判に移行することはできません。
調停では、夫婦の間に調停委員とよばれる人が入り、話し合いを行います。具体的には、夫婦は顔を合わせることなく交互に調停委員に対して自分の言い分を主張し、また調停員から相手方の主張を聞くことになります。
勘違いされやすいのですが、調停委員は裁判官ではないため夫婦に対し強制力のある判決などを出すことはできません。あくまで夫婦の話し合いの仲立ちをする立場の人であり、結局のところ調停は夫婦間の話し合いの場にすぎないとご認識ください。しかし、調停委員が間に入ることで、夫婦当事者だけの場合よりも冷静に話し合えることが期待できます。
調停で離婚の合意に至ると、調停が成立します。合意した内容に基づき家庭裁判所の書記官が「調停調書」が作成され、離婚届を提出することにより、離婚が成立することになります。この調停証書は法的な効力を持つ書類となるため、合意したはずの財産分与や年金分割の不履行に対して強制執行が可能になります。 -
(3)審判
調停において、離婚することについては夫婦双方が合意しているものの、離婚条件がわずかに折り合わないなどで最終的な合意に至らないことがあります。この場合、家庭裁判所が離婚が妥当と判断した場合は夫婦の離婚を認める審判を出します。ただし、離婚の審判が出ても2週間以内に夫婦の当事者一方が異議の申し立てを行うと、離婚の審判は無効となります。このためか、平成20年における審判による離婚は離婚全体のうちわずか0.03%と、きわめて稀です。
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(4)裁判
調停で折り合いが付かない場合は、「調停不成立」として裁判に移ります。裁判では、調停と異なり主張について証拠に基づいた客観的事実の有無や、過去の判例など法的側面が重視されるようになります。
具体的な流れは、「裁判所に離婚の訴えを提起」「裁判所を介して相手方と主張書面をやり取り」「裁判所から和解勧告ないし判決」といった流れになります。
裁判所は民法第770条に定める離婚原因の有無や慰謝料など支払われるべき金銭の妥当性について審理を進め、離婚原因があると認めた場合は、離婚させるという判決を出します。もし当事者の一方あるいは双方が判決に対して不服の場合、高等裁判所や最高裁判所に上告することになります。なお、平成20年における裁判による離婚は、離婚全体の2.4%です。
3、熟年離婚で争点になりがちなテーマ
熟年離婚では、夫婦の子どもはすでに成人し親権そのものが消滅していることが多いことから、親権や養育費をめぐって争うことは少ないようです。したがって、今後の生活の糧となるお金や不動産が最大の争点となります。
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(1)財産分与
民法第768条第1項では、離婚の際に相手方に対して財産分与を請求することができると規定しています。
財産分与については、主に以下の3種類があります。
●清算的財産分与
結婚した日から夫婦で形成・維持してきた財産は、名義に関係なく夫婦の共有財産として貢献度に応じて離婚時に分配するというものです。なお、結婚前から夫婦が個別に所有していた財産は「特有財産」として、その維持に夫婦の協力が認められた場合を除き基本的に財産分与の対象とはなりません。また、婚姻期間中に相続で取得した財産についても、夫婦で形成・維持してきた財産とはいえないため財産分与の対象とはなりません。
●扶養的財産分与
夫婦の一方が離婚をすることで収入がなくなり生活に困窮してしまう場合、あるいは高齢や病気である場合に、その事情を考慮して行われる財産分与です。
●慰謝料財産分与
相手方に離婚原因があった場合に慰謝料の意味を含めて行われる財産分与です。本来、財産分与と慰謝料の支払いは区別されるのが自然ですが、便宜上財産分与に含めて請求・支払いを行うことも考えられます。
財産分与の割合は民法でも明確な規定がなく、夫婦で形成・維持してきたものを貢献度に応じて公平に分けるという考え方から、客観的な基準が見いだしにくいものです。ただし、過去の判例や慣行面から別居時あるいは離婚成立時点における共有財産額の「2分の1ずつ」とすることが一般的であり、相手方との交渉もこれがスタートラインとなることが多い傾向があります。 -
(2)年金分割
公的年金のうち、年金分割の対象となるのは厚生年金(標準報酬月額・標準賞与額)と旧共済年金のみに限られます。したがって、そもそも個々で支払う必要がある国民年金や、個人としての貯蓄となる厚生年金基金の上乗せ給付部分や、国民年金基金・確定給付企業年金・確定拠出年金・私的年金は分割の対象とはなりません。
年金の分割制度には、以下の2種類があります。分割の請求については、いずれも離婚した日の翌日から起算して2年を超えると時効となります。
●3号分割
ここでいう3号とは、年収130万円未満の主婦など厚生年金加入者に扶養されている配偶者、いわゆる国民年金の第3号被保険者のことです。
3号分割とは、平成20年4月1日以降の婚姻期間で3号被保険者だった配偶者と厚生年金記録を2分の1ずつ分割する制度です。分割割合は2分の1で固定されており、夫婦の合意は必要ありません。離婚成立後、分割を受ける当事者が年金事務所で手続きを行うだけです。
●合意分割
調停や裁判で争点となりやすいのが、この合意分割です。もし婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれるときは、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされます。婚姻期間中の厚生年金記録について、話し合いのもと割合を決めて分割します。一般的に、話し合いで合意を得られなければ、分割ができません。 -
(3)婚姻費用
離婚をめぐり別居状態などになった場合、感情的になった相手方から生活費がもらえないことが想定されます。しかし、離婚をめぐって別居期間中であっても、正式に離婚がするまでは民法第760条に定める婚姻費用分担義務に基づき、夫婦は互いの生活費を負担しなければなりません。収入が多い側が少ない配偶者の生活費を相応に負担する義務は、別居中であろうと変わらないのです。
したがって、相手方と財産分与や年金分割、婚姻費用の合意がまとまらない場合でも家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を起こして、当面の生活費だけは確保するようにしましょう。
4、弁護士に相談したほうがよいケース
離婚原因が自分にある、相手が不当に高い財産分与を請求している、互いに感情的になっており夫婦当事者間での話し合いが難しいなどの場合は、弁護士に相談することをおすすめします。離婚問題の解決に実績豊富な弁護士であれば、法的なアドバイスはもちろんのこと、あなたの代理人として相手方と交渉し円満な離婚に向けた働きが期待できます。
少しでも相手方との協議に不調を感じた場合、まずは水戸エリアで離婚問題を取り扱っている弁護士を調べ相談してみてはいかがでしょうか。
5、まとめ
離婚は結婚と比べ何倍もの労力と時間を使うといわれています。特に夫婦関係が長ければ長いほど、蓄積した財産額が多ければ多いほど、離婚は難航する可能性があります。
あなたにとって、新たな出発となるはずの離婚が後悔につながらないように、できるだけ早いうちから弁護士に相談しておくとよいでしょう。ベリーベスト法律事務所・水戸オフィスでもアドバイスを行っています。お気軽に問い合わせください。
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