会ったこともない相続人がいる場合の相続手続きの進め方は? 弁護士が解説

2021年08月11日
  • 遺産を受け取る方
  • 相続人
  • 会ったこともない
会ったこともない相続人がいる場合の相続手続きの進め方は? 弁護士が解説

普段あまりお付き合いがない親戚であっても、戸籍上の親族関係があれば期せずして相続人となることがあります。そのようなケースでは、会ったこともない親族を交えて相続手続きを進めることになることも珍しくありません。

相続は基本的に相続人同士で話し合いを行いながら進める必要がありますが、話し合いがまとまらない場合は、最終的に家庭裁判所で解決を図ることになります。相続人になったけれども何から手をつければいいのか分からない、穏便に進めたいけれども知らない人と交渉するのは不安、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回のコラムでは、会ったこともない相続人がいる場合の相続手続きを想定して、
● 相続の基本的なルールと手順
● 一部の相続人を除いて相続手続きを進めるとどうなるか
● 相続の手続きに協力しない相続人への対処方法
● 相続手続きを弁護士に依頼するメリット
について解説します。

1、相続の基本的なルールと手順

相続の基本的なルールについて、手順に沿って解説します。

  1. (1)相続人の調査

    亡くなった方(被相続人)の戸籍を取り寄せて、相続人となる親族を調査します。

    相続人となる親族の範囲は、配偶者と次の中で最も優先順位が高い血族です。

    • ① 直系卑属(子ども、孫)
    • ② 直系尊属(親、祖父母)
    • ③ 兄弟姉妹


    戸籍は様式の変更や婚姻などによって新しい戸籍に書き換えられるため、出生までさかのぼって数通の戸籍が必要になることがほとんどです。

    また、相続人となりうる親族についても最新の戸籍まで取り寄せる必要があります。

  2. (2)相続財産の調査

    被相続人の財産や借金などの債務のすべてが相続の対象となり、後の遺産分割協議や相続税の申告の際に必要な情報となります

    主な財産の種類と手掛かりとなる例をご紹介します。

    ① 預貯金や有価証券
    ・通帳や金融機関から郵送される取引報告書などの書類
    ・パソコンやスマホなどの端末の利用履歴
    ・過去の確定申告書

    ② 不動産
    ・固定資産税の課税明細書
    ・権利証
    ・不動産所在地の役場で交付される名寄せ帳

    ③ 動産
    ・被相続人の自宅にある貴金属や現金、家財道具など一切の物品

    ④ 借金などの債務
    ・ローン契約書や利用明細書、請求書などの書類
    ・保証契約書など保証人に関する書類
    ・通帳からの引き落としの履歴
    ・信用情報機関への照会

    信用情報機関とは、銀行や貸金業者、信販会社における取引情報を登録する機関で、

    • 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
    • 株式会社日本信用情報機構(JICC)
    • 株式会社シー・アイ・シー(CIC)

    の3つがあります。

  3. (3)遺産分割協議

    相続人全員で遺産をどのように分けるのか話し合い、全員の合意により遺産分割協議が成立します。

    話し合いといっても全員が一堂に会する必要はなく、電話やメール、オンライン会議などの方法により協議することも可能です。

    合意が成立した場合、遺産分割協議書を全相続人の連名で作成しますが、郵送により持ち回りで署名押印する方法でも問題ありません。

  4. (4)名義変更手続き

    相続財産は相続の開始(被相続人の死亡)により相続人全員が共有する状態となり、相続人各人が自由に処分することはできません

    遺産分割協議により相続財産を取得した相続人が名義変更手続きを行うことにより、相続人の財産として自由に処分することが可能になります。

    具体的には、預貯金などの金融資産は金融機関などに遺産分割協議書を示して名義変更や解約を行い、不動産は遺産分割協議書を原因証書として相続登記手続きを行います。

  5. (5)相続税の申告・納付

    相続税が課税される場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から、10か月以内に申告、納付をする必要があります。

    相続税には基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)があり、必ずしも申告が必要ないケースもありますが、生前に受けた贈与や死亡保険金などが加算されるなど注意点もあります。

  6. (6)注意したい点

    ここまでご紹介した相続手続きには、注意したい次の期限があります。

    • 相続税の申告期限である10か月
    • 相続放棄の期限である3か月

    相続財産を調べるうちに、財産を超える多額の借金が見つかることもあります。

    このような場合は、すべての財産を引き継がないために、家庭裁判所に相続放棄の申述をするのが一般的です。

    相続放棄の期限は相続の開始を知った日から3か月以内とされています。

    相続財産の調査に時間が掛かると借金の発見が遅れる可能性があるため、相続人の確定と
    相続財産の調査を並行して行うなど、時間を意識した作業が必要です。

    また、相続財産を処分してしまうと相続放棄ができなくなることもあります
    葬儀費用を相続財産から支出することは「処分」に当たらないとされていますが、あくまで例外的に認められるものです。

    後で返すつもりだったとしても、預貯金などを私的に流用すると相続放棄ができなくなったり、他の相続人から不信を買ったりすることになりかねないので、注意が必要です。

2、一部の相続人を除いて相続手続きを進めるとどうなる?

相続の手続きは法律に従って進める必要がありますが、一部の相続人を除いて遺産分割するとどのように扱われるのでしょうか。

  • 一部の相続人を見落としたり無視したりした場合
  • 相続開始時に胎児がいる場合
  • 死後認知された子どもがいる場合

に分けて解説します。

  1. (1)一部の相続人を見落としたり無視したりした場合

    故意または過失により他の相続人を除いて遺産分割を行った場合、その遺産分割は無効となります。

    戸籍により判明する相続人を欠いた状態で遺産分割をしたとしても、遺産分割協議書と戸籍一式を確認すれば遺産分割が有効に成立していないことは明らかになります。
    そのため、金融機関や登記所で不備を指摘されて名義変更ができないのがほとんどでしょう。

  2. (2)相続開始時に胎児がいる場合

    相続開始の時点で相続人となりうる立場になりながら戸籍には反映されないケースとして、相続開始時に胎児であったということがあります。

    民法886条では、

    • ① 胎児は、相続については、すでに生まれたものとみなす。
    • ② 前項の規定は、胎児が死体で生まれたとき、適用しない。

    とされています。

    相続は基本的に次世代へ財産を引き継ぐことに主眼を置いた制度であり、生まれていない胎児であっても、相続権は尊重されるのです。

    胎児は生まれた時点で相続人としての地位が確定するため、それまでは遺産分割は行わないのが一般的です。遺産分割をすでに行っていた場合は無効となります。
    なお、胎児が被相続人の子どもや孫である場合、第1順位の相続人となり、第2順位以下の親族は相続人ではなくなるため、相続人の調査の段階で注意が必要といえます。

  3. (3)死後認知された子どもがいる場合

    被相続人やすでに亡くなった相続人が婚外子をもうけて認知していなかった場合、戸籍からは相続人となる婚外子は確認できません。

    しかし、親が亡くなって3年以内であれば、死後認知の訴えを起こすことができます(民法787条)。

    死後認知が認められると、子どもの出生にさかのぼって認知の効力が生じます(民法784条)。

    死後認知がされると、遺産分割に加わるべき相続人が増えたり、相続人の構成が変わったりするのは、胎児の場合と同様です。
    しかし、死後認知の場合は、すでに遺産分割をした相続人に落ち度はなく、遺産分割を無効にするのは酷といえます。

    そのため、死後認知により遺産分割に加われなかった相続人は、相続財産を取得した相続人から相続分に応じて金銭の支払いを請求できるとされています(民法910条)。

3、相続の手続きに協力しない相続人への対処方法

遺産分割協議はすべての相続人が協力しなければ手続きが進められません。

相続人の中で手続きに協力しない人がいる場合はどうすればいいのでしょうか。

  • 手続きに協力してくれない理由
  • 家庭裁判所での遺産分割

について解説します。

  1. (1)手続きに協力してくれない理由は?

    調査で明らかになった相続人には、まず手紙などで相続が発生したことや遺産分割協議を行いたいことを連絡するのが一般的です。

    手紙を送っても反応がない場合、先方も不安に感じている、どうすればいいのか分からない、関わりたくないと思っているなどさまざまな理由が考えられます。

    そのような状況であっても、遺産分割協議書を送り付けたり、相続放棄をすすめたりするのは得策とはいえません。
    一方的な主張を通そうとすると、かえって態度を硬化させてしまう可能性があるからです。

    また、遺産分割協議には応じるものの過大な要求をされることや、協議に拒否的な態度をとられることもあります。
    遺産分割協議に協力してもらえない場合でも、感情的にならず、法律に従って理性的に対応するのが肝心といえます。

  2. (2)家庭裁判所での遺産分割

    相続人同士で遺産分割協議ができない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停または遺産分割審判の申し立てをするほかありません

    これらの手続きを利用する場合は、相続人と相続財産の調査が完了していることが前提となります。

    遺産分割調停とは、裁判所の仲介により話し合いでの解決を目指す手続きです。

    遺産分割審判とは、裁判所に各相続人の主張を聞いてもらい、裁判所に分割方法を判断してもらう手続きです。

    まず遺産分割調停を申し立てるのが一般的ですが、相続人間で協議を重ねても平行線だった場合は遺産分割審判を選択することもできます。
    なお、遺産分割調停を申し立てて調停が不調に終わった場合は、自動的に遺産分割審判へ移行します。

    令和元年に水戸家庭裁判所で扱われた遺産分割事件の結果は、

    • 話し合いがまとまったもの(調停成立)……約5割
    • 裁判所の判断により分割したもの(審判)……約3割
    • 申し立てが取り下げられたもの……約2割

    でした。(出典:令和元年司法統計年報)

    原則として、申し立てをする家庭裁判所は、

    • 遺産分割調停の場合は、相手方の住所地にある家庭裁判所
    • 遺産分割審判の場合は、被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所

    です。

4、相続手続きを弁護士に依頼するメリット

相続の手続きは法律に従って進める必要があり、サポートを依頼する場合は弁護士が適任といえます。その理由を解説します。

  1. (1)弁護士は、相続人や相続財産の調査からサポートできる

    相続の開始によってまず行わなければならない相続人や相続財産の調査は、膨大な作業となることが少なくありません。

    生前にお付き合いがなかった親族であれば、何から手をつければいいのか分からないというのも当然といえます。

    また、相続財産の管理や各種の期限など、「知らなかった」では済まされない落とし穴にも注意が必要です。

    弁護士であれば、そのようなケースのサポート経験が豊富なため、効率的に作業を進めることが期待できます

  2. (2)交渉や家庭裁判所の手続きを委任できる

    会ったこともない人と相続について話し合いをしたり、家庭裁判所へ遺産分割の申し立てをしたりするのは、一般の方にはハードルが高い作業ではないでしょうか。

    弁護士は日ごろからあらゆる事件で依頼者の利益を守るために交渉をするプロです。
    親族同士の遺産分割では、過去のいきさつなどで感情的な対立が障害となることも少なくありませんが、第三者的な立場である弁護士が介在することで理性的に話し合いが進むことも期待できます。

    また、交渉だけではなく、家庭裁判所での遺産分割まで本人に代わって代理できるのは、弁護士だけです。

  3. (3)法律だけではなく税金や登記のサポートも重要

    相続は法律に関する知識だけではなく、相続税や不動産登記など多岐にわたる専門的知見が必要です。

    弁護士にアドバイスを依頼しても、税金のことは税理士に、不動産登記のことは司法書士にということになるのでは、真のサポートとは言いがたいでしょう。

    ベリーベストには、弁護士はもちろん、税理士、司法書士も在籍しており、各分野の専門家がチームとして相続問題をサポートするワンストップサービスを提供しています

5、まとめ

疎遠な親族の相続人となった場合、相続人や相続財産の調査も手探りの状態で進めることになり、遺産分割が順調に進む保証もありません。

身近な方の相続であっても心労が絶えない作業になりがちですが、疎遠な親族であればなおさらといえます。

相続の問題について、誰かに相談したい、作業に時間を掛けられないという場合は、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています