【前編】退職金を払ってもらえない場合、労働者ができることとは

2019年11月19日
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【前編】退職金を払ってもらえない場合、労働者ができることとは

平成30年7月、酒気帯び運転で勤務先から懲戒免職および退職金不支給処分を受けた男性が、退職金の不支給処分の取り消しを請求した裁判で、水戸地裁は原告である元公務員の訴えを認める判決を出したという報道がありました。

この判決からも伺えるように、労働者に多少の落ち度があったとしても退職金を受け取る権利は正当なものです。一方で、さまざまな理由をつけて正当な退職金の支払いを拒否する会社も存在し、会社と労働者の間で起きるトラブルの原因ともなっています。

そこで、あなたが請求しても会社が正当な理由なく退職金の支払いを拒否している場合にとるべき方法について、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説します。

1、退職金とは?

学術的な退職金の考え方には、その性質から雇用契約終了時までの「賃金の後払い説」、雇用期間における労働者の働きに報いるための「報奨金説」などがあります。いずれにせよ、退職金とは,労働者が退職し使用者との労働契約関係が終了した際に、使用者から労働者側に支払われる金銭であるとの定義が一般的です。ただし、退職金の受け取り方法は必ずしも全額一括ではなく、年金形式を選択できることもあります。

揺らぎはじめているとはいえ、終身雇用が基本という雇用慣行が続いている日本において退職金は、使用者にとって労働者が安易に転職せず長く働いてもらうために与えるインセンティブのような機能を果たしています。また、労働者にとっては,年金や失業手当と同様に、退職後の生活基盤を支える重要な資金でもあるのです。

2、退職金の支払いは会社の義務?

厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査」によると、調査対象となった企業のうち退職金制度を設けている企業の割合は80.5%です(平成30年1月1日現在)。
この数値を高いと見るか低いと見るかは意見が分かれるところだと思いますが、100%ではない理由は「法律上、会社に退職金制度を設けることは義務付けられてはいない」ためです。また、勤続年数など退職金を受け取るための条件、そして退職金の金額などは会社が任意に定めることができます(労使間の合意を前提としている会社も多いようです)。

もし、会社に退職金規定がない場合は、退職金の支払いについての労使慣行がないかぎり、請求することは難しいでしょう。

しかし、退職金制度について会社が以下のような形で規定している場合は、正当な理由なく会社が労働者に退職金を支払わないということは許されません。そして、労働者には規定に従った退職金の支払いを会社に請求する権利があるのです。

  1. (1)雇用契約書に退職金規定がある

    労働基準法第15条では、雇用契約の締結に際して会社が労働者に対し「労働条件を明示すること」を義務付けています。これに基づき、労働者に対して会社は必ず「労働条件通知書」や「雇用通知書」などのような書面を交付する方法で、労働条件明示する必要があります。

    そして、労働基準法施行規則第5条では、雇用契約締結時に労働者に明示すべき最低限の労働条件のひとつとして、「退職手当の決定、計算の方法、支払いの方法、支払いの時期」を定めています。この内容に反して会社が退職金を支払わないというのであれば、会社による労働契約の不履行といえるでしょう。

    なお、雇用契約に類似したものとして労働契約があります。両者の違いは雇用契約が労使対等を旨としていることに対し、労働契約は労働者にとって従属的な性格があるというだけであり、実質的に同じです。

  2. (2)就業規則に退職金規定がある

    就業規則とは、労働条件や禁止規定など会社のルールを明文化したものです。

    従業員が常時10人以上の会社であれば、労働基準法第89条の規定により会社は必ず就業規則を作成のうえ、労働基準監督署など所轄の行政官庁へ届け出なくてはなりません。
    また、先述した雇用契約の締結時における労働条件を開示する方法としては、労働基準法施行規則第5条に定められた項目について明記された就業規則をコピーして、労働者に交付する方法も認められています。

    そして、会社が就業規則に退職金の規定を設けている場合、労働基準法第89条第3号の2の規定により、就業規則には「退職金規定が適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算の方法、支払いの方法、支払いの時期」が明記されていなければなりません。就業規則に退職金規定があるのにもかかわらず規定に従った支払いがされないのであれば、会社の債務不履行が疑われます。

3、会社が倒産したら退職金はどうなる?

倒産したことを理由に、会社が退職金の支払いを拒否することもあり得ます。

しかし、会社が倒産したとしても退職金は未払い賃金として、賃金の支払いの確保等に関する法律第7条に基づく「未払賃金の立替払事業」により、独立行政法人労働者健康福祉機構から立て替え払いを受け取ることができます。

後編では、引き続きベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が、未払い退職金を請求する具体的な方法について解説します。
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