外国人技能実習制度の問題点とは? 弁護士ができることについて解説
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厚生労働省の発表によると、水戸オフィスのある茨城県で働く外国人技能実習生は、平成29年10月末時点で11358名でした。この数は、全国の都道府県で5位となる受け入れ人数です。したがって茨城県は、外国人技能実習生の受け入れが進んでいる県であるともいえるでしょう。
ただしこの制度は問題も多く、特に外国人が劣悪な労働環境におかれやすい点が国内外から指摘されており、実際に訴訟沙汰になっている事案もあります。あなたの大切な友達が技能実習生であれば、「もしかしたら、劣悪な労働環境におかれているのでは」と心配してしまうのも無理はありません。
今回は、外国人技能実習制度の概要と顕在化している諸問題を紹介するとともに、弁護士ができることについて解説します。
1、外国人技能実習制度とは
外国人技能実習制度とは、日本国籍を有しない外国人が「外国人技能実習生」として最長5年にわたり日本の民間企業などで報酬を得ながら多様な技能・技術などを習得できる制度です。平成5年11月に制度化してから外国人技能実習生としての在留外国人は年々増え続けており、平成29年末には製造業を中心に274233人にまで達しています。
外国人技能実習生の受け入れ方法は、日本の企業などが実習実施者として海外現地法人や合弁企業または取引先企業などの従業員を受け入れて技能実習を実施する「企業単独型」と、事業協同組合や商工会などの非営利団体が「監理団体」として外国人技能実習生を受け入れ、その組合員である企業などが実習実施者として技能実習を実施する「団体監理方式」に大別されます。平成29年末時点では団体監理型が約96.6%であり受け入れ先は従業員19人未満の企業が約65%と、多くの技能実習生は中小企業で実習を受けています。
外国人技能実習制度の趣旨は日本の国際貢献であり、具体的には来日した外国人技能実習生が開発途上国・地域の発展に有用な技能・技術などを日本で就労しながら習得してもらう「国を挙げた人材育成」にあります。この実現のために、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」は、技能実習を行う受け入れ先である民間企業などの「実習実施者」に対し、実習生を受け入れる体制整備や外国人技能実習生のための「技能実習計画」を作成し、厚生労働省と法務省が管轄する「外国人技能実習機構」の認可を受けなければ実習生を受け入れてはならないと定めています。
また、同法は実習実施者に対して労働基準法など関係法令の適用・遵守など技能実習生の保護についても定めていますが、すべての実習現場で実体が伴っているとは必ずしもいえません。
2、外国人技能実習制度の問題点
外国人技能実習生は日本国内で就労しているわけですから、受け入れ先には原則として労働基準法や最低賃金法等など労働基準関係法令の遵守が要請されます。これに加えて「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」などのような法制度が存在しているのです。
しかし、外国人技能実習制度では、制度そのものの不備などに起因した外国人技能実習生に対する人権侵害とも捉えられるような行為が報告されています。その数は外国人技能実習生数の増加に比例して年々増え続けており、外国人技能実習制度は日本弁護士連合会など国内からの指摘だけではなく国際社会からも強い批判を浴びています。
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(1)制度の趣旨と異なる実習内容
業務内容が「きつい・汚い・危険」と3拍子が揃ったいわゆる「3K」の企業は、就労希望者が少ないために慢性的な人手不足に悩まされています。一方で、日本は基本的に単純労働を目的とした外国人の在留を認めていません。このため、「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」という同法の規定にもかかわらず、外国人技能実習制度を安い労働力の調達手段として活用していると思われる受け入れ先が見受けられます。
たとえば、本制度により来日した外国人技能実習生が受け入れ先により福島第一原子力発電所で除染作業への従事を余儀なくされていたことが平成30年5月に判明し、法務省および厚生労働省が「制度の趣旨に照らし不適当」との声名を出すまでに至っています。 -
(2)過酷な労働環境
厚生労働省によりますと、平成26年から平成28年の3年間で22名の外国人技能実習生が労災により死亡したものと認定されています。この3年間の労災死は外国人技能実習生10万人あたり3.7人です。これに対して同一期間における日本全体の労災死は10万人あたり1.7人ですから、いかに外国人技能実習生が置かれている労働環境が過酷であることが伺えるでしょう。
この背景としては、ただでさえ不慣れな日本で、言語の壁から体調不良などを適切に訴えることができないことなどが考えられます。さらに、労働時間や衛生面など、法律上の規定を厳守することが難しいと経営者が考える状況下で働く外国人技能実習生が多いという点が問題視されているのです。 -
(3)低い収入
先述のとおり、外国人技能実習生の多くは相対的に賃金の低い中小企業で就業しています。また、「外国人技能実習制度における講習手当、賃金及び監理費等に関するガイドライン」においては、外国人技能実習生に対する賃金水準について「賃金は、日本人労働者が従事する場合に支払われる賃金と同等額以上の賃金を支払う必要がある」としか書かれておらず、外国人技能実習生に支払われるべき賃金の目安はありません。このことから、各都道府県や産業別に定められた最低時給が外国人技能実習生に支払われる賃金のベースになっていると推測されます。
ただし、表面化している諸問題をみると、この最低時給すら支払われていないケースは多いのではないかと考えられます。たとえば、法務省が行った「実習実施者等から失踪した技能実習生に係る聴取票」によりますと、多くの外国人技能実習生が「月給10万円以下」と回答しています。労働時間を考慮すれば最低時給を下回っている可能性は十分にあるでしょう。
このほか、基本給6万円・残業代が時給400円だったという技能実習生の手紙についても報道されています。 -
(4)受け入れ先による強制帰国の濫用
「技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する基本方針」には、「技能実習生が実習期間の途中でその意に反して帰国させられることはあってはならない」と明記されています。
それにもかかわらず、外国人技能実習生は本人に非がなくても監理団体や受け入れ先の意向次第で強制帰国を迫られる事例が報道されています。たとえば、有給休暇を請求したため強制帰国させられたという報道や、ケガで働くことができなくなった外国人技能実習生を強制帰国させたといった報道もありました。
もし強制帰国をさせられたとしても、外国人技能実習生は声をあげにくいものです。泣き寝入りとなる事例が少なくないのかもしれません。 -
(5)雇用関係が圧倒的に不利
外国人技能実習生は受け入れ企業と雇用契約を締結しますが、雇用契約に関する多くのことは監理団体が管理しており、さらに受け入れ先と職種が確定したうえで来日しています。したがって、受け入れ企業が倒産するなどの事情がない限り、基本的に在留中に受け入れ先が変わることはありません。
そもそも、不慣れな日本で転職活動を行うことが現実的ではないでしょう。このような外国人技能実習生の被用者として圧倒的に弱い立場が、受け入れ先による違法行為の温床にもなっているといわれています。また、これは、受け入れ先の違法行為に耐えかねた外国人技能実習生の失踪が絶えない要因のひとつと指摘されています。
3、泣き寝入りせず弁護士に依頼するメリット
このように外国人技能実習制度にはさまざまな問題があります。しかし、多くの外国人技能実習生は、受け入れ先や監理機関に対する立場の弱さと言葉の壁、そして日本における各種制度への不案内さから泣き寝入りせざるを得ない状況に置かれているのではないのでしょうか。
もしあなたが、そのような場面に直面したり、そのような話を見聞きしたりしたとき、どうにかできないものかと考えることはごく自然なことでしょう。そのときは、決してひとりで悩んだり苦しんだりしないで、まずは弁護士に相談するようアドバイスしてください。
労働問題は日本で生まれ育った労働者でも、専門家でない限り雇用先と交渉することは難しいものです。この点、労働問題の解決に経験豊富な弁護士であれば、適切な対策方法を得ることができます。声を上げなければ、問題を解決に導くことはできません。
なお、日本弁護士連合会は、早くから本制度の諸問題について政府に改善を訴える動きを行っています。労働局や労働基準監督局においても、労働者に違法な労働環境を強いる経営者に対する対策に力を入れ始めました。
なかでも弁護士は、本人に対するアドバイスを行うだけでなく、依頼者である外国人技能実習生の代理人として受け入れ先や関係諸機関と交渉することも可能です。具体的な交渉を通じて、未払い賃金の支払いや長時間労働の是正など正当な権利の実現が行われるよう、力を尽くしています。
4、まとめ
外国人技能実習生に対して受け入れ先による不当行為が存在する問題は、外国人技能実習制度の範囲に収まるものではありません。自らの立場のために声を上げられない労働者……と考えれば日本人も無視できない問題のはずです。
今後の少子高齢化進展による深刻な人手不足を見据え、政府はこれまで受け入れてこなかった外国人の単純労働者を制度改正により対象業種を限定して受け入れる方向に進んでいます。しかし、外国人技能実習制度における諸問題が続けば就労希望あるいは技能実習目的で来日する外国人そのものが激減し、悪循環に陥ることでしょう。
だからこそ、いま外国人技能実習生として日本に在留している人が弁護士などの力を借りながら不当な受け入れ先に対して是正を促し、声をあげていくことが大事なのです。不当な労働状況に関する悩みを抱えているときは、まずは労働問題に対応した経験が豊富な弁護士に相談してください。ベリーベスト法律事務所・水戸オフィスでもアドバイスを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています