「社員に代休を強制的に取得させるには?」休日出勤の適切な運用方法
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茨城労働局のデータによると、2020年に長時間労働が疑われるとして監督指導が実施された事業所は、259事業所でした。
従業員に代休を取得させることは、会社にとって人件費を抑制する観点からも効果的です。一方で、代休を取得したがらない従業員もしばしば見られます。
会社が従業員に対して、代休を強制的にとらせることはできるのでしょうか? 今回は、代休に関する基本的なルール、会社が従業員に代休を強制取得させることの可否、休日出勤に関する労務管理上の注意点などを、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説します。
出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する令和2年度の監督指導結果」(茨城労働局)
1、代休に関する基本ルール
代休制度は、労働基準法などで義務付けられたものではないため、すべての会社で導入されているわけではありません。代休制度が導入されている場合でも、その内容は会社によって異なります。
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(1)代休のルールは就業規則等で定める
代休取得に関するルールを定め、制度として行うには、就業規則等に規定する必要があります。
労働基準法では、代休取得に関して強制的に適用されるルールは特に定められていません。
したがって、各会社において適用される代休取得のルールは、純粋に就業規則や労働契約の定めに従って決まります。 -
(2)代休取得には期限を設けるのが一般的
代休をいつ取得すべきかについても、就業規則等で定められるルールによって決まります。
代休取得を無期限とすることも可能ですが、実際には多くの会社において、代休取得に期限が設けられています。
代休取得に期限を設けることは、休日出勤後、短期間のうちに従業員の心身を回復させる観点から効果的です。
また、有給休暇とは異なり代休が「たまる」ことがなくなるため、会社の労務管理がしやすくなるメリットもあります。
したがって、会社が代休制度を導入する際には、就業規則などで取得期限を設けておくのがよいでしょう。
ただし、代休取得の期限を新たに導入したり、取得期間を短縮したりする場合、新ルールを既存の従業員に適用するには、原則として従業員の個別同意が必要となる点に注意が必要です(労働契約法第9条)。
2、代休取得を会社が強制することは可能か?
代休を取得するかどうかは、従業員が裁量によって判断できる場合、会社の指示により付与できる場合、一定のルールに従って自動的に付与される場合など、さまざまなパターンがあります。どのような方法によって代休が付与されるかについては、やはり就業規則などの定めに従います。
たとえば就業規則において、会社が代休の付与日を決定できると定められていれば、従業員の同意がなくても強制的に代休を付与することが可能です。
自動的に代休の付与日が決まるルールが採用されている場合も、同様に代休取得に関する従業員の同意は必要ありません。
これに対して、従業員が裁量によって代休を取得するかどうか決められるルールの場合、会社が従業員に強制的に代休を取得させることは違法となります(代休とした日も賃金全額が発生)。
このように、会社が従業員に対して代休取得を強制できるかどうかは、就業規則などの規定に照らして判断することが必要です。
3、代休取得時の割増賃金に関する考え方
従業員に代休を取得させた場合、会社が従業員に支払う賃金を減らすことができます。ただし、休日労働の賃金全額の支払いが不要となるわけではなく、割増賃金分は支払義務が残る点に注意が必要です。
以下の設例を用いて、代休取得時の賃金に関する考え方を見てみましょう。
- 1時間当たりの基礎賃金:2000円
- 所定労働時間:8時間
- 法定休日である2022年6月25日に、8時間の休日労働を行った
- 労働日である2022年6月27日に、代休を取得した
設例のケースでは、2022年6月25日に8時間の休日労働が行われています。休日労働の割増賃金率は「35%以上」であるため、2022年6月25日の休日労働に対応する賃金は以下のとおりです。
=2000円×1.35×8時間
=2万1600円※
※通常の賃金分:1万6000円、割増分:5600円
一方、2022年6月27日に代休が付与されています。
2022年6月27日には、本来であれば8時間の労働をするはずだったところ、そのすべてが無給の休日となるため、以下の賃金が減額されます。
=2000円×8時間
=1万6000円
休日労働と代休日の賃金額を差し引きすると、会社は従業員に対して「5600円」の賃金を追加で支払わなければなりません。
この5600円は、休日労働の賃金の割増分に相当します。
代休の付与により通常の賃金が不支給となるものの、休日労働の割増賃金は発生するため、トータルでは休日労働の割増分が残ってしまう点に注意が必要です。
4、休日出勤に関する労務管理上の注意点
会社としては、労働基準法を順守するとともに、従業員の健康管理の観点を踏まえて、休日出勤に関する労務管理を適切に行う必要があります。
具体的には、以下の各点に十分注意を払い、自社の労務管理体制を構築しましょう。
弁護士にご相談いただければ、会社の状況に合わせて講ずべき労務管理措置などについて、丁寧にアドバイスいたします。
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(1)代休・振替休日・有給休暇の違いを正しく理解する
会社が従業員に付与する休日には、法的にさまざまな種類があります。
その中でも、特に代休・振替休日・有給休暇の3つについては、混同されているケースも多いので注意が必要です。
会社としては、代休・振替休日・有給休暇の基本的な考え方として、以下の各点を正しく理解し、それぞれを区別して取り扱わなければなりません。① 代休
休日労働が行われた後、事後的に労働日を休日とすることで与えられます。代休当日は無給となりますが、休日労働の割増賃金が発生するため、差額である割増分の精算が必要です。
② 振替休日
あらかじめ休日と労働日を振り替えることで与えられます。振替休日の当日は無給となる一方で、元々休日だった日は労働日扱いとなるため、休日労働の割増賃金ではなく通常の賃金が発生します。したがって振替休日の場合、(時間外労働が行われない限り)残業代の追加精算は不要です。
③ 有給休暇
労働基準法に基づき、従業員に与えられる有給の休暇です。代休・振替休日とは異なり、要件を満たす従業員には必ず付与しなければなりません。最大2年間の繰り越しも認められています。 -
(2)36協定で休日出勤のルールを明確に定める
法定休日に従業員を労働させるには、時間外労働(法定外残業)をさせる場合と同様に、労使協定(36協定)を締結しなければなりません(労働基準法第36条第1項)。
休日労働に関して、36協定で定めるべき事項は以下のとおりです。- 休日労働をさせることができる労働者の範囲
- 休日労働の対象期間(1年間に限る)
- 休日労働をさせることができる場合
- 休日労働の上限日数(1か月間・1年間のそれぞれについて定める)
労働者側(労働組合など)と十分に話し合ったうえで、従業員の健康を害しないように配慮されたルールを、36協定で明確に定めておきましょう。
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(3)休日の「持ち帰り残業」の状況を把握する
最近ではテレワークが普及したこともあり、仕事を家に持ち帰る従業員が増えています。
会社の具体的な指示がなくても、業務上の必要性がある仕事を、従業員が法定休日に行った場合、休日労働として割増賃金が発生する可能性がある点に注意が必要です。
会社としては、面談などを通じて「持ち帰り残業」の状況を把握するともに、休日・深夜などの「持ち帰り残業」は極力控えるように呼び掛けるべきでしょう。
また、残業を行う際には事前に申告すべきルールを定めることも考えられます。 -
(4)代休はできるだけ早めに取得させる
従業員に代休をとらせる主な目的は、休日労働による連続勤務の状態を解消し、従業員の肉体的・精神的な負担を軽減する点にあります。
したがって、従業員に対する代休の付与は、休日労働から間近い時期に行われるべきです。
就業規則等により、強制的に代休を与えられるルールが定められていれば、適切な時期に自動的に代休を与えることができます。
一方、代休取得が従業員の裁量に委ねられている場合にも、会社側が積極的に代休取得を奨励する呼びかけを行うのがよいでしょう。休日労働が行われてから、できる限り1、2週間以内に代休を取得させ、従業員の心身の回復を促すことをお勧めいたします。
5、まとめ
休日労働が続いた従業員は連勤状態となり、心身の健康を害してしまうおそれがあります。
そのため、会社としては、就業規則などに基づいて代休を与えるなどして、従業員の健康管理を図る必要があります。就業規則などのルールに従っていれば、従業員の同意なく強制的に代休を与えることも可能です。
代休の取り扱いを含めて、適切な労務管理体制を構築することが、労働環境の改善や中長期的な会社の成長につながります。
ベリーベスト法律事務所は、クライアント企業のご状況に応じて、労務管理体制の構築に関するアドバイスを親身になってご提供いたします。労務管理の改善を目指す企業経営者・担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています