産後クライシスで離婚する場合、慰謝料はとれる?

2021年07月12日
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産後クライシスで離婚する場合、慰謝料はとれる?

もともとは仲の良かった夫婦が、妻の出産後、急速に不仲になるケースがあります。夫が育児を手伝わない、妻の家事に文句ばかり言う、妻のやり方を否定するようなモラハラ状態が続いている、こんな状態では離婚の文字も頭をよぎるでしょう。

夫のモラハラで産後クライシスになり離婚する場合、妻は慰謝料を請求できるのでしょうか。本コラムでは、産後クライシスと離婚について弁護士がご説明します。

1、産後クライシスとは

  1. (1)産後クライシスとは?

    産後クライシスとは、妻の出産をきっかけに急激に夫婦仲が悪くなることです。子どもが生まれた直後は、夫婦が普段以上に協力すべき大切な時間です。ここで、協力関係がとれないと、一気に妻の気持ちが冷めてしまい、夫に対する怒りや結婚生活への絶望を感じ、離婚にまで進んでしまうケースがあるのです。

    具体的には、こんな状況に複数該当すれば、産後クライシスの可能性があります。

    • 出産後、夫の言動にいちいちイラつく
    • 出産後も夫だけが変わらず働いていることに腹が立つ
    • 夫が自分に子育てを押し付けているような気がする
    • もっと夫にも家事をしてほしいのにやってくれない
    • 出産してから夫への愛情が急激に冷めた
    • 1日中子育てのことばかり考えて疲れ切っている
    • 休みの日にも夫が子どもの面倒を見ないのが許せない
    • これからも夫と暮らすと思うと、ゆううつになる
    • ささいなことで夫と言い争いになってしまう
    • 気持ちがふさぐ日が増えて優しく夫に接することができない
  2. (2)産後クライシスの原因

    産後クライシスの原因のひとつとして、妻の出産や子育ての大変さを、夫がまるで理解してくれないということがあります。

    実際、妊娠出産は命がけともいえます。また、出産した直後から子育てが始まり、母親は自分の時間がとれない状況に追い込まれます。特に、初めての子育てには不安がつきものですし、産後のホルモンバランスの変化によって、不安定な気持ちになるのもやむを得ません。

    そんなときに、夫が出産前と変わらぬ生活を送り、家事や子育ては妻がするのがあたりまえという考え方をとっていると、産後クライシスのリスクは一気に高まります

2、離婚後の生活のイメージをしながら検討を

産後クライシスで離婚の文字が頭をよぎるときもあるでしょう。しかし、離婚を切り出す前に冷静に考えるべきことがあります。まずは、次のような点をイメージしながら検討してみましょう。

  1. (1)経済的なリスク

    幼い子どもを抱えて離婚する場合、経済的なリスクは避けて通れません。子どもの年齢が小さいと保育所などの預け先の確保も簡単ではありません。保育所が見つかっても、ひとりで育てていると、送迎も病気のときの対応もすべて母親だけで負担しなければなりません。フルタイムで働きながら子育てをするのは、日本ではまだまだ厳しい状況です。

    とはいえ、パートタイムの仕事では、十分な収入を得ることは難しいのが実情です。生活が苦しくなると、精神的なゆとりもなくなり、子育てがますます負担に感じられる可能性もあります。また、子どもが大きくなるにつれて教育費の負担が大きくなります。経済的な理由で十分な教育を与えられなければ、親としての責任を感じてしまうかもしれません。離婚を決意する前に、今後の収入や仕事に関する計画をしっかり立てて、冷静に判断することが大事です。

  2. (2)子どもの心理的負担

    子どもがいる夫婦が離婚する場合は、子どもの心への負担をしっかり考えなければなりません。離婚は悪いことではありませんが、子どもの成長を考えると、原則としては両親からの愛情を日常的に受けながら過ごすことが望ましいとされています。

    両親が幼いころに離婚したことで、子どもが満たされない思いを抱えたまま大人になる可能性は否定しきれません。また、子どもは親が苦労している姿を見ると、自分が親の重荷になっていないか、親を自分が助けなければならないのではないか、といった子ども独特の考えに至り、自分の本当の思いや夢を我慢しようとする可能性もあります。

    もちろん、家庭によって事情は異なりますので、離婚したほうが子どもにとってよいという場合もあるでしょう。たとえば、夫が子どもに暴力をふるう場合などは、離婚して子どもを守る必要性が高いケースと言えます。いずれにしても、離婚するかどうか決めるのは親ですが、子どもは離婚によって大きな影響を受けます。特に子どもが小さいうちは、離婚後の生活が子どもへ与える影響もよく検討しましょう

3、離婚までの流れ

産後クライシスで離婚を決心し実際に離婚するとなれば、どんな流れで手続きをすることになるのでしょうか。

  1. (1)まずは話し合い

    産後クライシスだと感じたら、まずはその気持ちを率直に相手に伝えてみましょう。離婚を考えるほど悩んでいることも、一度は相手に話してみることが大事です。もちろん、気持ちが追い詰められていると、冷静な会話は難しいかもしれません。また、思いきって話をしても、相手がまともに受け答えしてくれず、がっかりするかもしれません。

    それでも、ひとりですべてを抱えていては気持ちが落ち込んでいきます。また、この人とはもうやっていけないと判断し、離婚を決意した場合でも、相手と話し合いをせずに自分だけで離婚をすることはできません。どんな結果になろうと、夫との話し合いは必要だという覚悟で、自分の気持ちを伝えるようにしましょう

  2. (2)協議離婚

    日本の制度では、夫婦双方が合意するだけで自由に離婚することができます。これを協議離婚といいます。手続きは、離婚届に夫婦で署名押印して役所に提出するだけです。日本で離婚する夫婦の多くが協議離婚を選択しています。

    なお、夫婦に未成年の子どもがいる場合は、親権者を決めなければなりません。離婚届に親権者を記載する欄があるからです。また、協議離婚する場合、証人2名の署名押印も必要です。証人は成人であれば誰でも構いません。知人や親族に頼んで証人になってもらうことが一般的です。離婚届が役所に受理された時点で法的に離婚が成立し、夫婦は他人になります。

    子どもを連れて離婚する場合、妻側にとって最も大切なポイントは、養育費をその後もしっかり払ってもらうことです。養育費は子どもが成長していくために必要なものですから、離婚の際には夫と交渉して、金額や支払い方法について取り決めをしましょう。

    そして、取り決めた内容を口約束で終わらせず、きちんとした書面に残すことが大事です。離婚の際の条件をまとめた書面を離婚協議書といいます。離婚協議書を公正証書にしておけば、養育費の支払いが止まってしまった場合でも強制執行などの手段をとることができます。

  3. (3)調停離婚

    夫婦で話し合っても、離婚について合意が得られない場合は、家庭裁判所の離婚調停制度を利用することができます。離婚調停とは、夫婦で話し合いがつかない場合に、裁判所の調停委員が間に入って協議を進める制度です。

    妻が離婚調停を利用したいときは、原則として、夫の住所地にある家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。調停申し立てが受理されると、1回目の期日が決められ、夫婦双方が裁判所に出頭するように連絡が来ます。実際の調停は、男女1名ずつで構成された調停委員が進めていきます。調停委員が、夫婦双方の言い分をそれぞれ聞いて中立的な立場で解決を促すのです。なお、夫婦は同じ日に家庭裁判所に呼び出されますが、原則として顔を合わせることはなく、調停委員とも別々に話し、待合室も別々に用意されています。

    調停での話し合いで、夫婦双方が納得し、離婚に関する合意に至ると調停離婚が成立します。この場合、調停が成立した日が法的な離婚の日になります。なお、離婚調停は、裁判所が離婚について決定や命令を下す手続きではありません。あくまで、夫婦間の話し合いを行う場ですので、何回期日を繰り返しても、話し合いが進まなければ調停は不成立で終了してしまいます。

  4. (4)離婚訴訟

    調停が不成立で終わった場合には、訴訟を家庭裁判所に起こします。

    協議離婚も調停離婚も、夫婦双方の合意によって離婚を成立させる手続きです。したがって、離婚の理由は何でもよく、性格の不一致、生活習慣が合わない、夫が子育てを手伝わないのが耐えられない、など、どんな理由でも構いません。

    しかし、訴訟で離婚するためには、以下の原因のうち、少なくともひとつが必要です。性格の不一致だけでは、離婚は認められないのです。

    1. ① 相手が不貞行為をした(夫が不倫をしているなど)
    2. ② 相手から悪意で遺棄された(夫が出て行って生活費を入れてくれないなど)
    3. ③ 相手の生死が3年以上明らかでない
    4. ④ 相手が強い精神障害にかかり、回復の見込みがない
    5. ⑤ その他、婚姻の継続が難しい大きな事由がある


    相手の暴力などは⑤の「その他、婚姻の継続が難しい大きな事由」に該当する可能性があります。なお、①~④のような明確な離婚理由がない場合でも、別居が長期にわたり、夫婦仲が悪化し、将来においても夫婦関係の修復が見込めないと判断されれば、⑤「その他、婚姻の継続が難しい大きな事由」として、離婚が認められます

    なお、離婚を急ぐ場合でも、最初から裁判所に離婚訴訟を訴えることはできません。法律上、離婚訴訟を起こす前に必ず離婚調停を申し立てならないのです(調停前置主義といいます)。ですから、相手が合意してくれなければ、離婚の成立までにはある程度時間がかかることを覚悟しておきましょう。

  5. (5)産後クライシスで慰謝料はとれる?

    産後クライシスの背景に、夫からのモラハラ(モラルハラスメント)がある場合があります。モラハラが立証されれば、離婚原因となるだけでなく、慰謝料を請求できる可能性があります

    具体的なモラハラ行為とは

    • 「お前は何をやらせてもダメだな」などの人格を否定するような発言を繰り返す
    • 子育てや家事についてすべて否定し、妻の発言を一切認めない
    • 妻の行動を監視し、自由な外出などを許さない
    • 暴力まではいかないが、理由もなく謝罪や土下座を強要する


    などを指します。相手の人格そのものを認めない態度といってよいでしょう。

    このようなモラハラによって精神的苦痛を受け、離婚に至ったと認定されれば慰謝料を請求できる可能性があります。

4、離婚を弁護士に相談するメリット

  1. (1)交渉を有利に進められる

    たとえ協議離婚であっても、離婚にあたっては、さまざまな条件について交渉しなければなりません。慰謝料、財産分与、親権、養育費など、今後のことを考えると譲れない条件もたくさんあるでしょう。とはいえ、離婚に関する交渉には法的な知識が必要です。弁護士に依頼すれば、法的な知識と交渉経験を使って、自分にとって有利な交渉を進めてもらうことができます。

  2. (2)法的リスクの低い離婚協議書の作成ができる

    協議離婚で重要なのは、離婚時に合意した条件をしっかりとした離婚協議書に残すことです。協議書の内容に法的な不備があれば、妻だけでなく子どもの将来にも不利益が生じる可能性があります。特に、養育費や面会に関する事項はトラブルのもとになりやすいので、信頼できる弁護士に依頼することを検討しましょう。

  3. (3)調停から裁判へ万全のサポートができる

    協議離婚が成立しなければ、離婚調停から離婚訴訟へと手続きが進行していきます。調停も訴訟も裁判所での手続きですから、自分の主張次第で結果が変わってくる可能性が大いにあります。特に、離婚訴訟では、訴えた側が法的に有効な主張と立証を行わなければ、敗訴してしまいます。

    産後クライシスで精神的にダメージを受けている中、離婚の手続きをすべてひとりで進めていくのは大変な負担でしょう。そのうえ、裁判所から自分に不利な結果を突き付けられでもしたら、後悔してもしきれません。

    弁護士であれば、相手との交渉だけでなく、調停や裁判の手続きをしっかりサポートすることが可能です。離婚問題に詳しい弁護士から的確なアドバイスを受けることは、産後クライシスで不安な状態の方にとって、大きな支えになるでしょう。

5、まとめ

出産によって夫婦の関係が一変してしまう産後クライシス、別居や離婚へと進む前にぜひ一度弁護士に相談することをおすすめします。自分のためにもお子さんのためにも、納得できる解決の方法を探していくことが大事です。

ベリーベスト法律事務所では、産後クライシスからの離婚に関する相談をお受けしています。おひとりおひとりの事情に沿って親身にお話をうかがいます。大きな決断をする前にぜひ一度ご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています