殴り合いの喧嘩をしても警察は動かないって本当? 逮捕される可能性
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喧嘩になっても警察は動かないといううわさがあるようですが、現実は異なります。たとえば令和4年9月、茨城県鹿嶋市内でサッカー観戦中、サポーター同士が喧嘩になった際は茨城県警が対応しています。
他人の言動にカッとなった結果、感情に身を任せて人を殴ってしまった場合、暴行罪や傷害罪となる恐れがあります。警察を呼ばれたり、後日呼び出しを受けたりした場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
本コラムでは、喧嘩が刑事事件となった場合における刑罰の重さや対処法について、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説します。
1、喧嘩は何の罪にあたるのか?
喧嘩といっても、さまざまな態様があります。
「相手に非があるのに、自分だけ処罰されるのか」
「自分も殴られて怪我をしたのに、被疑者扱いされて納得がいかない」
このように、喧嘩をめぐる刑事責任はわかりにくい点もありますので、考え方を整理して解説します。
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(1)「喧嘩両成敗」ではないのか?
喧嘩両成敗とは、喧嘩は双方に落ち度があるのだから、両方とも等しく罰するという考え方です。
明快で人情にもかなった解決法といえるかもしれませんが、現代法においてはそのまま通用するわけではありません。
各自の行為や生じた結果の重さを評価して、それぞれの刑事責任を判断するのが現代法の原則です。
ただし、喧嘩は片方だけが一方的に悪いというケースばかりではありませんので、「被害者(相手)にも落ち度がある」という要素が考慮されることも少なくありません。 -
(2)相手に非がある場合も処罰されるのか?
口論の中で、相手が先に侮辱するような言動をしてきたことから、カッとなって殴ってしまったという場合のように、相手に非がある場合も罪になるのでしょうか。
明らかに相手に非がある場合、正当防衛となって刑事責任に問われない可能性もゼロではありません。
しかし、喧嘩の場合は、その一部分だけを取り出して正当防衛が認められることは考えにくいといえます。
相手に非がある場合でも、暴力により解決しようとすることは、基本的に許容されないと考えるべきでしょう。 -
(3)喧嘩はどのような罪にあたるのか?
暴力が伴う喧嘩であれば、暴行罪か傷害罪が成立することが考えられます。
喧嘩の場合、一方的に暴力を振るうこともあれば、お互いに暴力を振るっていることもありますので、喧嘩の一連の流れから、該当する罪や刑事責任の重さが判断されることになるでしょう。
なお、刑事事件では、罪を犯したことが疑われ捜査の対象となっている人を「被疑者」と呼びますが、喧嘩の場合は双方とも被疑者となることも珍しくありません。
2、喧嘩の罪と刑罰
喧嘩によって成立する可能性がある、暴行罪と傷害罪について、個別に詳しく解説します。
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(1)暴行罪(刑法208条)
人の身体に向けて不法な有形力を行使すると暴行罪に該当します。
罰則として規定されているのは2年以下の懲役、30万円以下の罰金、拘留、科料です。
「拘留」とは1日以上30日未満の間、刑事施設に収容される刑、「科料」とは1000円以上1万円未満を徴収される刑です。
「人の身体に向けた不法な有形力の行使」とは、殴る蹴るといった暴力が典型例です。
喧嘩でよく見られる、胸ぐらをつかむ・腕を引っ張る・体を押す・たたく、といった行為は、いずれも暴行罪となりうる行為です。
過去には、人の身辺で太鼓を打ち鳴らす、かみそりで髪の毛を切断する、といった行為でも暴行罪が認められています。 -
(2)傷害罪(刑法204条)
人の身体を傷つけると傷害罪に該当します。
罰則は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
最初から怪我をさせようとした場合だけではなく、暴行の結果、傷害の結果が生じた場合でも傷害罪は成立する可能性があります。
刑法でいう「傷害」とは、人の生理的機能を害することです。負傷させる以外にも、睡眠薬による意識障害や、PTSDなどの精神疾患も傷害に含まれます。
治療を要するような大けがだけではなく、数日もすれば治るような、かすり傷や皮膚に赤みが残る程度の打撲でも、傷害となります。
なお、傷害罪は刑の重さにかなり幅がある罪です。
- 相手を殴ったり蹴ったりして打撲傷を負わせた場合
- 頭部をしつこく殴って脳内出血の重傷を負わせた場合
- 鉄パイプなどの凶器で殴打して骨折させた場合
いずれも傷害罪が成立しますが、実際の刑の重さは大きく異なるでしょう。
また、相手が死亡する可能性があると認識しながら、死亡しても構わないと考えて激しい暴力を加えた場合は、殺人(未遂)罪に問われる可能性もあります。
3、警察の呼び出しの目的とは
喧嘩をしたあとで、警察署へ出頭を求められることがあります。これは、刑事事件として警察が捜査に乗り出していることを意味しています。
警察からの呼び出しがあった場合、どうすればいいのでしょうか。刑事事件の一般的な流れや呼び出された場合の対応について、解説します。
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(1)刑事事件の一般的な流れ
警察からの呼び出しがどういう意味なのかを理解するため、まずは刑事事件の一般的な流れから解説します。
- 刑事事件となるきっかけ 通報により喧嘩の現場に警察官がやって来た場合、喧嘩の当事者や目撃者から事情を聴いて、事件の発生を知ることになります。
- 捜査の開始 警察が事件の発生を認知すると、喧嘩の当事者や目撃者から詳しく事情を聴いたり、凶器や診断書など証拠を収集したりします。
- 微罪処分とは 警察官は、捜査した事件は検察官に送致するのが原則です。しかし、検察官が指定した事件は例外とされています(刑事訴訟法246条)。
- 検察官による起訴、不起訴の処分 事件が検察官に送致されると、検察官が被疑者などの取り調べを行い、収集された証拠を評価して、被疑者に刑事裁判を受けさせるか否かを判断します。
警察官が現場にいない場合には、喧嘩の当事者が警察へ被害届を出すことで、警察が事件を認知します。
その捜査により、暴行罪や傷害罪の容疑が固まると、検察官へ事件を送致するか、微罪処分として事件を終了させます。
この例外として処理されることを、微罪処分といいます。微罪というとおり、軽微な刑事事件のみに認められる処分です。
微罪処分となる基準は公表されていませんが、被害が軽微であること、前科や前歴がないこと、被害の回復が行われていること、などが考慮されるようです。
ちなみに、前科とは過去に刑事裁判で刑を言い渡された履歴、前歴とは過去に被疑者として捜査の対象となった履歴のことです。
令和4年に検察庁が処理した傷害事件と暴行事件の処理状況は次のようになっています。起訴 不起訴 起訴率 傷害事件 9349件 21679件 30.1% 内、暴行事件 3901件 10132件 27.8%
喧嘩以外の事件も含まれたデータですが、半数以上が不起訴処分となっていることがわかります。
不起訴処分となった場合は、刑事事件は終了します。
起訴されてしまった場合、罰金または科料の額を書面審理で決める略式裁判か、公開の法廷で審理される刑事裁判を受けることになります。 -
(2)警察からの呼び出しがあるタイミング
喧嘩の相手がすぐに警察に被害届を出した場合、または喧嘩の現場に警察官が臨場していた場合は、数日後または数週間以内には警察から呼び出しがあるでしょう。
ただし、怪我の治療が長引いているような場合は、かなり日数がたってから呼び出されることもあり、一概にはいえません。
相手が怪我をしている場合は、診断書の入手と相手からの事情聴取が一通り済んだ段階で呼び出されるケースが多いでしょう。
4、逮捕される可能性は?
最初の呼び出しの段階では、喧嘩の経緯や暴行の状況などが詳しく聞かれて、相手の言い分や、目撃者の供述と食い違っているかどうかなどが調べられるでしょう。
事実関係究明のための取り調べであると同時に、警察官は逮捕の必要があるか、吟味しながら取り調べを行っていると考えるべきです。
逮捕される可能性が高まる要素は、証拠隠滅のおそれと逃亡のおそれの2点です。
- 証拠隠滅のおそれとは 喧嘩の相手や目撃者に働きかけて、自分に有利な供述をさせることが考えられます。事実を認めて反省の態度を示している場合は、証拠隠滅の可能性も低いといえます。
- 逃亡のおそれとは 定職に就いて家族を扶養している立場の人であれば、単身で身軽な立場の人に比べると逃亡の可能性は低いといえるでしょう。
また、刑事処分がそれほど重くなることが予想されない場合は、処分をおそれて逃亡することも考えにくいといえます。
5、呼び出しをされたら弁護士へ相談を
喧嘩が刑事事件となっている以上、何らかの刑事処分を受ける可能性があります。この場合、呼び出しを受けた段階から、弁護士のサポートを受けるのがおすすめです。以下は、弁護士に相談するメリットについて解説します。
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(1)逮捕を回避する弁護活動ができる
傷害罪であれ暴行罪であれ、証拠隠滅や逃亡のおそれがある場合は、逮捕されるかもしれません。
逮捕されると、72時間は外部との連絡は弁護士を除いて一切できず、警察や検察から取り調べを受けることになります。
さらに、検察官が「引き続き身柄拘束を続ける必要がある」と判断すると勾留(身柄拘束のこと)される可能性もあり、最大20日間も拘束が続くことになりかねません。
弁護士は、証拠隠滅や逃亡を防止するための具体的な方策を明らかにして、逮捕の必要がないことを捜査機関に申し入れることができます。
逮捕されたあとで弁護士に弁護を依頼することも可能ですが、警察署の面会室での打ち合わせでは時間的制約を受けてしまい、かつ、弁護活動が後手に回ってしまいますので、なるべく早めに相談することをおすすめします。 -
(2)早急な示談で微罪処分や不起訴処分となることも
傷害罪や暴行罪では、被害者との示談の成否が、刑事処分を左右するといっても過言ではありません。
なぜなら、示談により被害が回復して被害感情も緩和されると、微罪処分や不起訴処分となる可能性も高くなるからです。また、被害届を取り下げてもらえた場合には、捜査が中止されることも期待できます。
しかし、喧嘩をした当事者同士で示談交渉をするのは、感情的なわだかまりもあり、容易ではないことも少なくありません。
また、相手の感情を逆なでしてしまい、威圧されたと警察に訴え出られた場合、証拠隠滅が疑われて逮捕されてしまう可能性もあります。
そのため、示談交渉は弁護士に依頼することがおすすめです。刑事弁護の経験が豊富な弁護士であれば、被害者の感情にも配慮した示談交渉の方法を熟知しています。
相手の被害感情がかなり強い場合でも、弁護士の仲介で弁償と示談の申し入れをしているという事実は、被害回復の努力をしているという評価材料にもなります。
6、まとめ
喧嘩をしても警察は動かないということではなく、通報があれば警察は当然対応します。殴り合いの喧嘩などによって刑事事件となった場合、相手が負傷しているかどうかや、その他の状況によって問われる罪が異なる点に注意が必要です。
警察から呼び出しがあったとなれば、すでに刑事事件として動き出していることになります。早急に弁護士のサポートを受けるのが賢明でしょう。
警察から呼び出しを受けた場合や、ご家族が通報を受け駆け付けた警察に逮捕されたときには、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスにご相談ください。刑事弁護の経験が豊富な弁護士が全力でサポートします。
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