成年後見人とは? 相続時に成年後見制度を利用するメリットとは?

2021年08月16日
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成年後見人とは? 相続時に成年後見制度を利用するメリットとは?

裁判所が公開する「成年後見関係事件の概況」によると、令和2年に水戸家庭裁判所管轄内であった成年後見人の申し立ては483件でした。全国的に見て申し立ての開始原因としては認知症によるものがもっとも多く、全体の約64.1%となっています。

認知症の方のために成年後見人を指定する理由は様々ですが、その中でも大きな理由の一つが、相続です。水戸市内にも、相続人の中に認知症の方がいることで、相続手続きをどうすればよいのかお悩みの方もいらっしゃるでしょう。実は相続にも成年後見制度が活用されています。

今回は、相続人の中に認知症の方がいるケースを想定し、成年後見制度の概要や手続きの方法、流れを解説していきます。

1、認知症の方がいる場合の相続手続きはどうするのか?

遺言書による指定がない限り、通常は相続人全員で遺産分割協議を行って財産を分け合います。遺産分割協議を終了するためには、相続人全員の合意が必要です。しかし、相続人の中に認知症の方(以下、本人)がいると、本人が自筆で遺産分割協議書にサインしたとしても協議の結果が有効にはなりません

なぜなら、認知症が進み、自分で法的な行為ができない人が法律行為を行っても、その行為は無効になるからです。

かといって、認知症を患った人を除いて遺産分割協議をしても、その協議は無効です。法律行為ができない人であったとしても、それが、その人の相続権を侵害する理由にはならないからです。

遺産分割協議が無効となれば、預貯金の払い戻し、不動産の名義変更など、その後の相続手続きには進めません。そのようなことにならないための対処法は2つあります。

ひとつは、遺産分割協議を行わず、あくまでも法定相続分どおりに分割する方法です。法律で決められたとおりに分けるのであれば、本人に特段の不利益が生じることはありませんし、遺産分割協議を行う必要もありません。しかし、法定相続分と異なる割合で分けたい場合や、特定の財産を誰かが取得したい場合などには利用できず、柔軟な分け方ができないという問題があります。

法定相続よりも柔軟な分配をするのであれば、2つ目の方法である、成年後見人を立て、成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加する方法を取る必要があります。

2、成年後見制度とは

成年後見制度とは、自分で物事を判断できない方の権利を守るために、成年後見人が財産の管理や法律行為を代わりに行う制度です。支援される人を成年被後見人といい、例えば、認知症、知的障害、発達障害、精神障害などを患っていて、判断能力を欠いている常況にある方が該当します。また、後見人制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つがあります。

任意後見制度は、判断能力が十分な段階で、判断能力が低下したときに備えて本人が成年後見人を選ぶ制度です。本人と選ばれた人との間で、公正証書によって任意後見人契約を結び、その後、判断能力が低下したら、家庭裁判所で任意後見監督人が選任され、その時から契約の効力が発生するという仕組みです

法定後見制度は、今現在、判断能力が不十分である方のために、家庭裁判所が成年後見人を選ぶ制度です。本人の判断能力に応じて、補助・保佐・後見という3つの制度があります。どの制度に該当するのかによって、成年後見人の権限が変わってきます。たとえば保佐は、本人が一定の法律行為をした後にその行為に同意したり、取り消したりすることができますが、後見の場合にはもっと広く、財産に関する代理権なども付与されます。

3、成年後見人には誰がなれるのか

成年後見人には、本人の心身の状態、生活状況などに配慮しつつ、財産管理や法律行為を適正に行える人であれば、なることができます。必ずしも親族である必要はなく、弁護士や司法書士、社会福祉士などが選任されることもあります。家庭裁判所が職権で選びますので、希望をした人が必ずなるとも限りませんし、不服申立てもできません。

  1. (1)成年後見人になれない人

    民法847条では成年後見人の欠格事由として、次の人はなることができないと定められています。

    • 未成年者
    • 家庭裁判所で法定代理人、保佐人、補助人を解任されたことがある人
    • 破産者
    • 被後見人に対して訴訟をした人、また訴訟をした人の配偶者や直系血族
    • 行方がわからない人
  2. (2)親族以外が選任される主なケース

    上記に該当しないときでも、たとえば次のようなケースでは、親族を後見人の候補者として申し立てても、ほかの人が選任されやすくなります。

    • 本人が財産を多く持っている
    • 本人と候補者が利害対立関係にある
    • 本人と候補者の関係が疎遠だった
    • 親族の間で意見の対立がある
    • 候補者が高齢
    • 本人と候補者の生活費が十分に分離されていない


    これは、上記のケースでは財産が不当に消費されてしまったり、適切な後見事務が行えなかったりするおそれが高いためです。なお、令和2年に親族以外が成年後見人になった割合は約80.3%ですので、親族以外が選任される可能性は高いといえるでしょう。

4、成年後見人選任までの流れと手続き

以下、成年後見人が選任されるまでのおおまかな流れは次のとおりです。

  • 申し立て
  • 調査、鑑定
  • 審判、選任


申し立ての前に家庭裁判所で手続きや必要資料の説明を受けることもできます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

  1. (1)申し立て

    被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てをします申し立てができるのは、本人や配偶者、四親等内の親族など特定の人に限られます。身寄りがいない場合は市区町村長が申し立てることもできますが、一般的には子どもや兄弟姉妹が申し立てるケースが多いでしょう。

    申し立てには申立書以外に、本人の戸籍謄本、住民票、診断書、親族の同意書、財産や収支に関する資料など、多くの書類が必要になります(家庭裁判所によって必要書類は異なります)。

  2. (2)審問、調査、鑑定

    申し立て後、家庭裁判所の職員は申立人や候補者、本人と面接し、申し立ての理由やそれぞれの関係性などさまざまな事情を聴きます。ほかの親族に対して、候補者に対する意見照会をすることもあります。これは親族間で争いがある場合に親族の誰かを成年後見人にすると、争いが悪化するおそれがあるためです。裁判官による事情聴取(審問)や、本人の判断能力を確認するために鑑定が行われることもあります。

  3. (3)審判、選任

    家庭裁判所で後見開始の審判が行われます。

    申し立てから審判までは1~2か月以内で終わるケースがもっとも多く、特別の事情がない限り4か月以内に終わると考えて問題ありません審判において家庭裁判所が適任だと思われる人を選任します

5、弁護士が成年後見人となるメリットは?

弁護士が成年後見人になることで多くのメリットがあります。

  1. (1)相続手続きに関与できる

    成年後見人になると遺産分割協議に参加できますが、財産をめぐって利益相反関係にある場合には、参加はできません。つまり、仮に親族が成年後見人になれたとしても、相続の場面においては本人と利益が相反する可能性が高いため、特別代理人を立てるなどして別途対応しなくてはならなくなります

    この点、弁護士は相続に関して利益相反関係にない第三者ですので、成年後見人となれば、そのまま遺産分割協議にも参加できます。たとえ親族間に意見の対立がある場合でも、本人の権利の安全性が担保されます。もちろん、そのほかの相続問題や手続きにも関与できます。

  2. (2)手続きの負担が軽減される

    前述のとおり、申し立てには非常に多くの資料を集めなくてはなりません。福祉関係者が記載する本人情報シートや、医師による診断書など、ほかの人の力を借りて集めなければならない書類もあります。

    そのほか家庭裁判所への対応などもあり、一般の方がひとりで行うとすれば、非常に手間がかかるでしょう。弁護士にはこうした手続きをすべて任せることができ、申立人の負担が大きく軽減されます

  3. (3)後見事務を適切に行える

    成年後見人はただ選任されて済む話ではなく、本人に代わって財産の管理を行うため、財産目録や収支報告書を作成し、毎年裁判所に報告する義務があります。手間がかかりますし、毎年適切に作成してしっかりと報告を続けていくことは思いのほか大変です。

    弁護士なら財産管理や報告を漏れなく行い、適切な後見事務ができます。そのほか、介護や賃貸にまつわる契約や、財産・負債に関する問題が起きた場面でも速やかに対応することが可能です。

6、まとめ

今回は成年後見制度と相続について解説しました。相続人の中に認知症の方がいる場合、勝手に相続手続きを進めることはできません。また、認知症の方が今後も直面するであろう、さまざまな法律問題や本人の権利を考えると、成年後見制度を利用することは賢明な選択肢だといえます。

弁護士であれば本人の権利を守ることができ、親族の方々にとっても公平性が保たれ、負担が軽減されるなどのメリットがあります。成年後見制度をお考えの方は、まずは弁護士に相談していただくことをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士も成年後見人制度の相談をお受けしておりますので、ぜひお問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています