遺産相続における養子の取り分|実子との違いや相続権、節税効果

2024年06月20日
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遺産相続における養子の取り分|実子との違いや相続権、節税効果

血縁があるかどうかにかかわらず、法的な親子関係を生じさせるのが養子縁組の手続きです。現在の法律とは制度が異なるものですが、水戸藩9代藩主の7男として生を受けた徳川慶喜は、11歳の時に一橋家の養子となったことは、非常に有名な話でしょう。古来より、養子という制度はさほど珍しいものではないといえます。

現在の法律上では、養子縁組が成立すると養子は養親の子としての権利を得ます。では、相続権も認められるのでしょうか。そこで本コラムでは、養子縁組による養子に相続権が認められるかについて、実子との違いから節税の効果まで、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説します。


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1、養子に相続の権利はあるか?

まずは、養子に財産を相続する権利があるかについて、養子制度や養子の相続権の概要を含めて解説していきます。

  1. (1)養子とは? 実子との違い

    養子とは、養子縁組によって養親の子になった方のことです。他方で実子とは、簡単に言えば「血のつながりがある子ども」を指し、法律上でいえば、嫡出子と非嫡出子が実子にあたります。たとえばAさんの実子は生まれたときからAさんの子どもですが、養子の場合、Aさんと養子縁組をした日から法的にAさんの子どもとしての地位を獲得することになるのです。

    養子縁組とは、血縁関係があるかどうかに関わりなく、法的な親子関係やそれに通じた親族関係を結ぶことができる制度です。

    養子縁組は、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。

    ●普通養子縁組
    当事者である養親と養子の合意があれば基本的に成立します。養親が成年であることや、養子が養親の直系尊属または年長者でないことなどの一定の条件は必要になりますが、基本的に普通養子縁組で養子にできる方に制限はありません。たとえば養親の孫、子どもの配偶者、配偶者の連れ子、おい・めい、親戚や知人などを養子にするケースがあります。

    ●特別養子縁組
    子と実親の親子関係を解消させたうえで養親の子とするのが特徴です。養子となる子の福祉を増進させることが目的のため、普通養子縁組に比べると特別養子縁組が認められる条件は厳しくなっています。
    特別養子縁組は当事者の意志だけでは成立せず、家庭裁判所の審判で認められて初めて成立します。養親に配偶者がいて夫婦ともに養親になること、養子が原則として6歳未満であることなどの要件があります。

  2. (2)養子の相続権の概要

    普通養子であっても特別養子であっても、養親との関係では相続権が認められます。

    民法で定められた相続人を法定相続人といいますが、法定相続人には順位があり、第1順位が被相続人の子、第2順位が被相続人の親や祖父母、第3順位が被相続人の兄弟姉妹です。養子は法的に被相続人の子としての地位になるので、第1順位に該当します。

    たとえば、亡くなった被相続人に配偶者、養子、実子、父親がいる場合、最初に相続権が認められるのは被相続人の配偶者と養子、実子です。相続放棄などを理由に養子と実子が相続権を喪失した場合には、第2順位の被相続人の父親に相続権が移行します。

2、普通養子縁組と特別養子縁組の相続の違い

普通養子縁組と特別養子縁組では、相続に違いがあります。

●普通養子縁組の相続
養子は養親の相続と実親の相続の両方について相続人になります。すなわち、養親が亡くなった場合、養子は養親の相続財産について相続権を有します。さらに、実親が亡くなった場合でも、養子は実親の相続財産について相続権を有します。

つまり普通養子縁組の場合、養子は養親と実親の両方の相続財産について相続権を有することになります。

●特別養子縁組の相続
養子は養親の相続財産については法定相続人になりますが、実親については相続人としての権利が認められません。特別養子縁組が成立すると、法律上、実親との親子関係が消滅するためです。したがって、実親が亡くなっても相続財産の法定相続人にはなりません。

3、養子と実子の相続の違い

実子から見ると、養子に対して実子であるほうが相続において優先されると考えるかもしれません。

しかし、相続制度においては養子と実子の相続の違いはありません。養子と実子はともに第1順位の相続人であり、法定相続分については全く同等となります。

たとえば、被相続人である父親が亡くなって、配偶者である母親、実子、養子の計3人が2000万円の財産の相続人となるケースで考えてみます。

2000万円のうち母親の法定相続分は2分の1の1000万円で、実子と養子の法定相続分は500万円ずつです。実子と養子の取り分は同じで、実子のほうが優先されることはありません。

もし、遺言や生前贈与により、実子の相続分が多かった場合でも、養子には最低限の取り分である遺留分が認められます。上記の相続のケースでは養子の遺留分は250万円です。

4、養子の節税効果と注意点

養子縁組における、主な節税効果をご紹介します。

  1. (1)相続税の基礎控除額が増える

    養子縁組をすると、その分法定相続人が増えるため、基礎控除額が増えます。

    相続税の基礎控除額の計算式は以下の通りです。

    基礎控除額 = 3000万円 + 600万円×法定相続人の数


    基礎控除額は、一律で3000万円設けられており、この3000万円に法定相続人1人につき600万円ずつ加算されます。

    基礎控除額の算定における法定相続人には養子も含まれます。そのため、養子縁組をすれば法定相続人の数が増えて相続税が安くなる仕組みです。

    たとえば、相続財産の価格が4000万円の場合、法定相続人が1人だと基礎控除額が3600万円なので、超えた分に対して相続税が課税されます。一方、法定相続人が2人だと基礎控除額が4200万円となり、相続財産の価格を上回っているので課税対象になりません。

  2. (2)養子を法定相続人にするには数に制限がある

    法定相続人の数が多いほど相続税の基礎控除額は多くなりますが、養子を法定相続人にするには数に制限があります。

    被相続人に実子がいる場合、基礎控除の法定相続人としてカウントされる養子は1人だけです。被相続人に実子がいない場合、基礎控除の法定相続人としてカウントされる養子の人数は2人となります。

    つまり、基礎控除の額を算定するためにカウントできる養子の人数は最高でも2人までです。3人以上の養子がいたとしても、養子の頭数によって相続税の額を減らすことはできません。

    たとえば、被相続人に実子1人と養子2人の計3人の子がいる場合、法定相続人としてカウントされる養子は1人だけなので、実子1人と養子1人の計2人だけが基礎控除額の算定の対象になり、基礎控除額は合計4200万円になります。

    なお、法定相続人として認められる養子の数の制限は、相続税の基礎控除額だけでなく、次に解説する死亡退職金と生命保険の非課税枠にも適用されます。

  3. (3)死亡退職金の非課税枠が増える

    亡くなられた方が他界されるときまで雇用されていて定年前だった場合、亡くなった本人の代わりに遺族が退職金を受け取ることがあります。これを死亡退職金といいます。会社に勤めている夫が亡くなって、妻が夫の退職金を受け取る場合などです。

    死亡退職金は原則として相続税の課税対象になりますが、退職金の合計額が非課税枠に収まる場合は、相続税は課税されません。死亡退職金の非課税枠の計算式は以下の通りです。

    非課税枠 = 500万円 × 法定相続人の数


    法定相続人の数には養子も含まれるので、相続税の基礎控除額と同様に、養子をとれば非課税枠の金額は多くなります。注意点として、カウントできる養子の数に制限がある点も基礎控除額と同じです。

  4. (4)生命保険の非課税枠が増える

    被相続人が亡くなったことを原因として生命保険金が支払われると、被相続人が保険料を一部でも支払っていた場合は、保険金が相続税の課税対象になります。

    保険金が相続税の課税対象になる場合、死亡退職金と同様に以下の非課税枠が適用されます。

    非課税枠 = 500万円 × 法定相続人の数


    法定相続人の数に養子が含まれることと、養子の制限数についても、死亡退職金の場合と同様です。

5、養子に相続させる際に考慮すべきこと

養子に遺産を相続させる場合、考慮すべき注意点をご紹介します。

  1. (1)実子と揉める可能性がある

    養子縁組をする場合、養親と養子の合意があれば原則として成立します。そのため、実子が養子縁組の事実を知らず、相続が発生して初めて養子の存在を把握するケースもあるでしょう。

    養子の相続分は実子と対等なので、実子が納得できずにトラブルに発展する可能性もあります。

    被相続人の死後、相続をめぐる実子と養子のトラブルを防止するには、実子が十分に納得したうえで養子縁組をするなどの工夫が大切です。

  2. (2)節税が必ず認められるとは限らない

    相続税法第63条は、「相続人の数に算入される養子の数の否認」を定めています。
    これは、養子を法定相続人に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められる場合には、税務署長は養子を法定相続人に含めないで相続税を計算できることを規定しています。

    個別具体的な事情によっては税務署による指摘を受ける可能性もあります。節税対策が必ず認められるとは限らない点には注意し、もしも不安であれば、相続問題の解決経験が豊富な弁護士に相談するのがおすすめです。

  3. (3)養子縁組の解消は簡単ではない

    一度養子縁組をすると、何らかの理由で離縁したくなっても簡単にいかないケースもあります。養子縁組を解消する場合、養親の意志だけでなく養子の同意も必要だからです。

    養子が応じない場合、離縁したければ裁判所で離縁調停や離縁訴訟をすることになります。また、離縁の訴えが認められるためには、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、縁組を継続し難い重大な事由などが必要になります。

    いずれにせよ養子の同意がなければ簡単に離縁はできないので、相続税対策として養子縁組をする前には、弁護士等をまじえて十分な検討をすることが望ましいでしょう。

6、まとめ

養子縁組が成立すると、養子は養親の相続財産について、実子と同じ第1順位の法定相続人になります。相続における養子と実子の権利は対等です。区別はつけられず、養子には実子と同じ相続分や遺留分が認められます。

他方で、養子縁組は相続税の節税に効果がある可能性があることは否定できません。なぜなら、相続税の基礎控除額の金額を決める法定相続人の人数には養子も含まれるからです。ただし、カウントできる養子の人数に制限があり、さらに相続人の数に算入出来る養子の数は必ず認められるわけではなく、その点は要注意と言えます。

養子と実子の間に相続についての争いが発生した場合など、遺産相続のトラブルでお悩みの場合はベリーベスト法律事務所 水戸オフィスにご相談ください。経験豊富な弁護士が円満な相続に向けて親身にサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています