残業代はいつから? 労働条件や実際に働いた時間から計算する方法

2022年07月07日
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残業代はいつから? 労働条件や実際に働いた時間から計算する方法

2021年10月の茨城労働局の発表によると、令和2年度に長時間労働が疑われるとして監督指導が行われた茨城県内の事業場は、259事業場でした。そのうち、賃金不払残業が確認されたのは、15事業場でした。

残業代が未払いとなっているケースは、残念ながら珍しいことではありません。残業代の未払い分は、いつから残業代が発生するのか、どのように残業代を計算するのかなどのポイントを理解したうえで、適正に請求しましょう。なお、会社側との交渉が難しい場合は、弁護士のサポートを受けることも非常に有益です。

今回は、残業代に関する発生要件・種類・割増賃金率・計算方法などの基礎知識や、残業代が未払いになりやすいケース、残業代請求の手続きや注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説します。

出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和2年4月から令和3年3月まで)」(茨城労働局)

1、残業代とは│発生要件・種類・割増賃金率を確認

残業代とは、基本給に上乗せして支払われる賃金です。まずは労働基準法のルールを踏まえて、残業代の発生要件・種類・割増賃金率を確認しておきましょう。

  1. (1)残業代の発生要件

    残業代が発生するのは、以下のいずれかの労働が行われた場合です。

    なお、労働者に法外残業と休日労働をさせるには、労使協定(36協定)を締結したうえで、労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第36条第1項)。

    ① 法内残業(法定内残業)
    労働契約や就業規則で定められる所定労働時間を超えるが、まだ法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)の範囲内である労働を「法内残業」と言います。

    ② 法外残業(時間外労働)
    法定労働時間を超える労働を「法外残業」と言います。

    ③ 休日労働
    法定休日における労働を「休日労働」と言います。法定休日は1週間に1日のみです。週休2日の会社では、法定休日でない休日を「法定外休日」と言い、そこに割増賃金は発生しません。週に複数の休日がある場合には、以下の要領でいずれかの休日が法定休日となります。
    (a)労働契約や就業規則に定めがある場合
    →その定めに従います。
    (b)労働契約や就業規則に定めがない場合
    →日曜から土曜を1週間として、そのうち最後の休日が法定休日となります。

    ④ 深夜労働
    午後10時から午前5時までに行われる労働を「深夜労働」と言います。
  2. (2)残業の種類別|割増賃金率

    労働基準法では、上記の残業の種類ごとに、以下のとおり割増賃金率を定めています。
    会社は労働者に対して、割増率を適用して計算した金額以上の残業代を支払わなければなりません

    法内残業 100%
    法外残業 125%(大企業の場合、1か月当たり60時間を超える部分については150%)
    深夜労働 125%
    休日労働 135%
    法外残業かつ深夜労働 150%(大企業の場合、1か月当たり60時間を超える部分については175%)
    休日労働かつ深夜労働 160%

2、残業代の計算方法|例に沿って解説

基礎賃金と残業時間数がわかれば、ご自身で残業代を計算することができます。
以下の設例に沿って、実際に残業代の金額を計算してみましょう。

<例>
月平均所定労働時間:140時間
法内残業:20時間
法外残業:10時間(うち深夜労働2時間)
休日労働:10時間
1か月の基礎賃金:42万円



  1. (1)1時間当たりの基礎賃金を計算する

    「基礎賃金」とは、給与計算期間中に会社が労働者へ支給したすべての賃金から、残業代と以下の手当を除いた金額を意味します。

    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われた賃金
    • 一か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    残業代を計算する際には、まず以下の計算式を用いて、基礎賃金を1時間当たりの金額に換算します。

    1時間当たりの基礎賃金=1か月の基礎賃金÷月平均所定労働時間

    設例では、1か月の基礎賃金は42万円、月平均所定労働時間は140時間です。従って、1時間当たりの基礎賃金は「3000円(=42万円÷140時間)」となります。

  2. (2)残業時間数を集計する

    1時間当たりの基礎賃金を計算したら、次は残業の種類ごとに時間数を把握・整理することが必要です。

    設例のケースでは、残業時間数および割増賃金率は、以下のとおり整理されます。

    残業の種類 残業時間数 割増賃金率
    法内残業 20時間 なし
    法外残業(深夜労働を除く) 8時間 125%
    休日労働 10時間 135%
    法外残業かつ深夜労働 2時間 150%
  3. (3)残業代を計算する

    残業代は、以下の計算式によって算出します。

    残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間数


    この計算式に従って、各残業の種類に対応する残業代を計算し、それらを合算して残業代の総額を求めます。

    例では、各残業代の金額および残業代の総額は、以下のように計算されました。

    ① 法内残業
    3000円×20時間=6万円
    ② 法外残業(深夜労働を除く)
    3000円×125%×8時間=3万円
    ③ 休日労働
    3000円×135%×10時間=4万500円
    ④ 法外残業かつ深夜労働
    3000円×150%×2時間=9000円
    残業代の総額
    =6万円+3万円+4万500円+9000円
    =13万9500円

3、残業代が未払いになりがちなケース

労働基準法が誤って適用されていたり、会社が金額をごまかそうとしたりして、残業代が未払いとなっているケースは非常に多いです。

特に以下のケースは、未払い残業代が発生する場合の典型例なので、ご自身に当てはまっているかよくご確認ください。

  1. (1)固定残業代制の運用方法が間違っているケース

    毎月決まった残業代を支給する「固定残業代制」が採用されている会社では、制度の運用が間違っていないかを十分確認する必要があります。

    固定残業代を採用する場合、会社は労働者に対して、以下の事項を明示しなければなりません。

    1. ① 固定残業代を除いた基本給の額
    2. ② 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
    3. ③ 固定残業時間を超える法外残業・休日労働・深夜労働に対して、割増賃金を追加で支払う旨


    (参考:「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。」(厚生労働省))

    上記のとおり、固定残業時間を超えて残業が行われた場合、会社は労働者に残業代を支払う義務を負います。
    しかし、固定残業代制を理由として、残業代を一切追加支給しない会社が非常に多いです。

    自分の会社が固定残業代制であっても、未払い残業代が発生していないか、追加の残業代が正しく支払われているか、チェックをしてみましょう。

  2. (2)管理職に対して残業代が一律不支給となっているケース

    経営者と一体的な立場にある「管理監督者」に当たる従業員に対しては、会社は残業代を支払う義務を負いません(労働基準法第41条第2号)。

    ただし、いわゆる「管理職」すべてが管理監督者に当たるわけではありません。管理監督者に当たるのは、権限・裁量・待遇などの観点から、経営者と一体的な立場にあると実質的に評価できる従業員に限られます。

    「管理職だから」というだけの理由で、権限・裁量・待遇が一般の従業員と大差ない管理職について、残業代を不支給としている会社が非常に多く見られます。

    このような問題は「名ばかり管理職」と呼ばれており、未払い残業代が発生する主要な原因の一つなので注意が必要です

  3. (3)勤務時間の不正打刻が行われているケース

    上司などの指示により、タイムカードなどの勤怠管理システム上で、実際の労働時間にかかわらず定時での打刻を強いられているケースが稀に見られます。

    勤怠管理システムは、実際の労働時間を正確に記録するためのものです。それなのに、会社が残業代を節約するため、勤務時間の不正打刻を従業員に強制することは、明確な労働基準法違反に当たります。

    もし勤務時間の不正打刻が行われている場合、未払い残業代が発生している可能性が高いでしょう。

4、残業代を請求する方法・請求時の注意点

残業代請求の際には、会社との間で交渉を行うほか、法的手続きの活用も視野に入れて対応しなければなりません。

消滅時効が完成するタイミングにも気を配る必要があるため、弁護士に残業代請求を依頼するのが安心です。

  1. (1)3種類の残業代請求方法

    残業代請求は、主に以下の3種類の方法によって行います。

    ① 会社との協議
    会社と直接話し合って、残業代の支払額や支払方法などを取り決めます。和解が成立すれば、迅速かつ円満に未払い残業代の問題を解決できます。

    ② 労働審判
    裁判官1名と労働審判員2名が、労使双方の主張を公平に聴き取り、紛争の迅速な解決を目指す非公開の手続きです。
    審理は原則3回以内に終結し、労使の合意による「調停」、または裁判所が判断を行う「労働審判」による解決がなされます。労働審判に対して異議申立てが行われた場合、自動的に訴訟へと移行します。
    (参考:「労働審判手続」(裁判所))

    ③ 訴訟
    裁判所の法廷で労使がお互いの主張を戦わせる、公開の手続きです。残業代請求権の存在が立証されれば、裁判所は会社に残業代の支払いを命ずる判決を言い渡します。


    会社の反応や証拠の内容・充実度などを総合的に考慮して、適切な手続きを選択することが大切です。
    いずれの手続きによる場合も、弁護士にご依頼いただくことでスムーズに対応できます。

  2. (2)残業代請求権の消滅時効に要注意

    残業代請求権は、発生時期に応じて、以下の期間が経過すると時効消滅してしまいます。

    ① 2020年3月31日までに発生した残業代請求権
    支払期日から2年

    ② 2020年4月1日以降に発生した残業代請求権
    支払期日から3年


    消滅時効の完成を阻止するためには、会社に対して内容証明郵便を送付し、時効の完成を猶予する方法などが考えられます(民法第150条第1項)。

    ただし、内容証明郵便による時効の完成猶予は6か月間限定のため、その間に労働審判や訴訟等による請求を行わなければなりません。

    未払いの残業代請求権について、消滅時効の完成が迫っている場合には、速やかに弁護士へご相談いただき、時効完成を阻止する対応をとることが大切です。

5、まとめ

残業代に関する労働基準法のルールや計算方法を理解しておくことで、会社の残業代未払いを見抜ける可能性が高まります。

もし未払い残業代が発生しているかどうかわからない場合や、会社に対して実際に残業代を請求したい場合には、弁護士へ相談しましょう

ベリーベスト法律事務所では、残業代請求に関する労働者の方からのご相談を随時受け付けております。残業代が少ない、未払いで悩んでいるという方は、お早めにベリーベスト法律事務所 水戸オフィスへご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています