歩合制でも残業代は出る? 残業代の請求方法を弁護士が解説

2022年02月24日
  • 残業代請求
  • 歩合制 残業代 請求
歩合制でも残業代は出る? 残業代の請求方法を弁護士が解説

令和元年に、最低賃金法違反で茨城県労働局に監督指導を受けた会社は83社でした。

歩合制は固定給とは考え方の違う給料体系のため、使用者側の思惑や誤った法的知識により、本来受け取る権利のある残業代や最低賃金が適切に支払われない、という危険性があります。

そこで本コラムでは、歩合制で働く方が受け取ることができる残業代や最低賃金の計算方法、そして使用者に請求する方法について、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説します。

1、歩合給と固定給の違いとは?

  1. (1)固定給とは?

    固定給とは、毎月の給与額が基本給により固定されている給与形態です。

    固定給はもっとも一般的かつ基本的な給与形態で、特に、事務職や作業員のように、あらかじめ行うべき作業がある程度決まっている職種に対して多く適用されています。

    固定給はその名のとおり、給与額が固定されているため、労働者としては安定した生活プランが立てやすいというメリットがあります。一方で、労働者のあげた成果が給与に反映されにくいことから、人によってはモチベーションの維持が難しくなることもあります。

  2. (2)歩合給とは?

    歩合給とは、コミッションともいいます。歩合制の給与形態では、労働者が売り上げた金額の何割かが歩合給として最低賃金である固定給へダイレクトに加算されるというように、労働者個人があげた成果に応じて給与額が変化します。

    歩合制は労働者のモチベーションを高めて会社の売り上げを伸ばし、かつ給与を変動費化したい使用者と、自身が頑張った分は給与に反映させてほしいという労働者のニーズがマッチした給与形態といえます。

    そのため、営業職や証券ディーラー・トレーダーなどのような職種が適しているといえます。一方で売り上げが減少すれば給与も下がってしまうため、労働者としては収入の浮き沈みが激しくなり安定性に欠けるというデメリットがあります。

2、完全歩合制は基本的に禁止されている

完全歩合制とは、労働者の給与すべてが歩合制で最低賃金がないという給与形態であり、フルコミッションもしくは完全出来高払いともいいます。極端なケースですが、完全歩合制の営業職で売り上げがゼロであれば、最低賃金がないため給与もゼロとなるのです。

ただし、使用者と労働者のあいだに雇用関係が成立している場合、現行の労働関連法のもとでは労働者に完全歩合制を適用することは禁止されています。

労働基準法第27条では、「出来高払い制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と規定しています。

つまり、歩合制が適用されている労働者に対して、使用者は最低賃金として固定給も併せて支払う義務があるのです。もし完全歩合制を条件として雇用契約を締結していたとしても、それは労働基準法第13条の規定により無効になります。

したがって、完全歩合制を理由に最低賃金が支払われていなかった労働者は、その支払いについて使用者に請求する権利があります

3、歩合制でも残業代は発生する?

結論から言いますと、歩合制が適用されている労働者であっても、会社の管理監督者や、労働基準監督署へ届け出た裁量労働制の労働者などでもないかぎり、法定労働時間を超過した勤務時間に応じて残業代が発生します

労働基準法では、法定労働時間として労働時間を1日あたり8時間、1週間あたり40時間と規定しています。

この法定労働時間を超えて労働した時間のことを、法定外残業といいます。この法定外残業に対して、使用者には基礎賃金を割り増しした残業代を支払う義務があるのです。(労働基準法第37条第1項)これは固定給制であろうと、歩合制であろうと一緒です。「歩合制が適用されている労働者は労働時間の長さよりも労働の成果によって評価されるべきだから、残業代を払う必要はない」という考えは通用しません。

また、「残業代は歩合給に含まれている」と主張する使用者も存在するようですが、その場合、歩合給のどの部分が残業代なのか明確に判別できなければなりません。つまり、契約書や就業規則によって金額が明示されているか、容易に算定可能でなければなりません。そして、その額が労働基準法に適合していなければならないのはもちろんです。

そのような事実がないにもかかわらず、使用者が漫然と「残業代は歩合給に含まれているのだから払わない」というのであれば、使用者による労働基準法違反が疑われます。それと同時に、労働者には使用者に対してそれまでの未払い残業代を請求する権利があるのです。

4、未払い残業代や最低賃金を請求する方法

残業代や最低賃金が適正に支払われていないかもと思ったら、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、証拠を基に本来支払われるはずだった残業代を計算し、ご相談者さまを代理して、会社に対し未払い残業代と最低賃金の支払いを請求します。以下では、支払いを受けるためのステップをご説明します。

  1. (1)証拠を集める

    未払いの残業代や最低賃金を請求するためには、支払いが適正に行われていない事実を労働者が立証しなければなりませんそのためには、証拠が必要です

    証拠としては給与明細のほか、タイムカード、パソコンのログ記録、会社のパソコンから送信したEメール、顧客との交渉履歴、業務日報など、あなたが実際に労働した時間を証明するものを集めましょう。なお、あなた自身が付けた、毎日の勤務時間の記録も、有力な証拠となる可能性があります。

  2. (2)使用者に請求する

    未払い残業代や最低賃金を支払うよう、証拠の提示とともに使用者に対して請求します。

    使用者に法令順守の意識があれば、この時点で支払いに応じる可能性があります。この場合、支払いに関する合意書を締結してから支払いを受けることが一般的です。
    しかし、法令順守の意識が希薄な使用者であれば、あの手この手で支払いを拒むこともあるでしょう。

    そのような場合に備えて、使用者と交渉する際は弁護士を代理人として依頼することがおすすめです。

  3. (3)時効を更新する

    使用者に対して労働者が未払いの残業代や最低賃金を請求する権利は、3年で時効となり消滅してしまいます。(民法改正により、2020年4月以降発生した残業代請求の時効は3年となりましたそれ以前、2020年3月までに発生した残業代の時効は2年です。)

    もし使用者との交渉がうまくいかず、長期化することが予想される場合、その間に本来支払いを受けることができるはずの残業代や最低賃金の支払いに、時効が成立してしまうこともあります。したがって、時効は直ちに止める必要があります。

    時効を止めるためには、使用者に未払い残業代や最低賃金の支払いを求める「催告」を、内容証明郵便で送付します。そして、使用者が内容証明郵便を受け取ってから6か月以内に訴訟を提起します。こうした手続きを踏めば、時効を止めることができます。

  4. (4)訴訟を提起する

    訴訟の手続きは煩雑であるため、弁護士に依頼することがおすすめです。

    訴訟が提起されると、会社名や事案の内容が公表されます。そのため、世間体を重視する使用者であれば、訴え提起前の和解で支払いに応じる可能性もあります。

5、まとめ

使用者に対して未払いの残業代や最低賃金を請求するときは、まず弁護士に相談することをおすすめします。

未払いの残業代や最低賃金の請求について、労働者の立場から企業との交渉や裁判による解決に実績豊富な弁護士であれば、あなたの代理人として、支払いという解決に向けた活動を行います。

ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスでは、労働問題全般に関するご相談を承っております。また、当事務所には残業代チェッカーという、おおよその残業代を知るツールもございます。ご自身の残業代に疑問がある場合は、残業代ツールでチェックし、ぜひご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています