弁護士が解説! 労働安全衛生法を守るために経営者は何をすべきか
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会社を立ち上げ、従業員が増えてくると、経営者としては労働安全衛生法を意識せざるをえません。
労働安全衛生法とは、労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を作るために、労災防止のための基準や管理体制の明確化などを推進する法律です。職場の産業医の制度や、健康診断などの制度は、この労働安全衛生法に基づくものです。
茨城労働局では、職場の安全衛生管理のために、安全衛生管理に役立つ社内規定例や労働安全衛生法に基づいて行わなければならない事項の一覧表などを提供しています。今回は、会社の経営者の方が、労働安全衛生法をしっかりと守るためには何をすべきかについて解説いたします。
1、労働安全衛生法を守るためにやるべきこと①:責任者を任命する
労働安全衛生法では、業種や、事業場の労働者数に応じて、「総括安全衛生管理者」、「安全管理者」、「衛生管理者」、「産業医」などを選任することを義務付けています。選任したときは、その職務を明確にし、職務を行うために必要な権限を与えなければなりません。
今回は、上記の責任者の中から、小規模の事業場であってもすぐに必要となる産業医・衛生管理者・安全管理者について解説します。
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(1)産業医
労働安全衛生法第13条において、事業場の規模ごとに、医師の中から産業医を選任し、その医師に労働者の健康管理などを行わせなければならないと定められています。
産業医の選任は、すべての事業者に義務付けられているわけではありません。50人以上の労働者を働かせている事業者においては選任義務がありますが、49人以下の場合は、医師等による健康管理等を行う努力義務が定められているにとどまります。
産業医は、労働者の健康診断、長時間働いている労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置、ストレスチェックや高ストレス者への面接指導などを行います。 -
(2)衛生管理者
50人以上の労働者を働かせている事業者は、事業場の労働者の人数ごとに、法律で決められた資格(第一種衛生管理者免許、労働衛生コンサルタントなど)を持つ人の中から、衛生管理者を選任しなければなりません。
(労働安全衛生法第12条により)
衛生管理者には、危険や健康被害を防止するための方策を打つ、安全に業務を進めるための教育を行う、などの業務が課されます。次に述べる「安全管理者」とよく似ていますが、衛生管理者は、職場の衛生に関することに特化した管理者です。 -
(3)安全管理者
林業、清掃業、製造業などの法律で定められた業種で50人以上の労働者を働かせる場合には、特定の資格を持つ人の中から安全管理者を選ばなければなりません。
安全管理者には、職場の安全が保たれるよう、処置を行う業務が課されます。具体的には- 職場に危険がある場合の応急処置
- 危険防止設備の定期点検
- 安全に関する教育
- 避難訓練
などです。
2、労働安全衛生法を守るためにやるべきこと②:組織を設置する
労働安全衛生法では、法業種や、事業場の労働者数に応じて、衛生委員会と安全委員会を設置しなければなりません。
安全委員会は、林業、清掃業、製造業などの法律で定められた特定業種の事業者のみに設置が義務付けられていますが、衛生委員会は、使用する労働者が50人以上になった場合には、全業種について設置が義務付けられています。
各委員会は、労働者の危険または健康障害を防ぐため規程を作ったり、調査や審議を行ったりします。労使が一体となって進めていく委員会であるという所にも特徴がみられます。
また、事業者は、各委員会における議事の概要を、委員会を開催するごとにすみやかに労働者に周知しなければなりません。
3、労働安全衛生法を守るためにやるべきこと③:労災を防ぐための対策を進める
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(1)健康管理、健康の維持促進
労働者の健康を管理し、維持・促進するための方法としては、健康診断やストレスチェック、産業医との面談などがあります。
労働安全衛生法は、事業者に対して、労働者に医師等による健康診断を受けさせることを義務付けています。健康診断は、労働者の雇い入れのときや、1年に1回の定期などに行う必要があります。
ストレスチェック制度とは、労働者の精神的な負担についての検査(ストレスチェック)を行い、検査結果に基づいて医師による面接・指導などを行う制度です。
50人以上の労働者を使用する職場では、ストレスチェックを行わなければなりません。50人未満の場合は努力義務となります。
ストレスチェックによって、労働者のメンタルヘルスの不調を防ぐとともに、職場環境の改善につなげることができます。また、個々の労働者に検査結果を通知することで、自らのストレス状況を認識させ、改善を促す効果もあります。
また、労働時間が長くなってしまっている労働者に対しては、医師の面談を受けさせ、医師の意見を反映した適切な処置を実施する必要があります。 -
(2)リスクアセスメント
製造業や建設業などの業種の場合、リスクアセスメントの実施が労働安全衛生法の努力義務となっています。
リスクアセスメントとは、職場に存在する危険や有害となる事象を見つけ、そのリスクの高さを判定したうえで、対策の優先順位を設定してリスクを減らすための措置を決定する、一連の手順のことです。
リスクアセスメントを行うことで、次のような効果が期待できます。- 職場にあるリスクを洗い出せる。
- そのリスクを職場全体で共有できる。
- リスク除去について、合理的な優先順位を決定できる。
- 職場が一丸となって取り組むことで、安全衛生に対する関心が高まる。
リスクアセスメントを実行するにあたっては、指針が厚生労働省から出ていますので、参考にするとよいでしょう。
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(3)快適な職場環境を作ること
快適な職場環境は、労災を防ぐだけでなく、職場の活性化や、労働者の能力発揮につながります。労働安全衛生法では、第71条の2にて快適な職場環境を整えることを事業者に求めています(これは、努力義務とされています)。
快適な職場環境を作るための指針(快適職場指針)は厚生労働省から発表されており、次のような措置をとることが求められています。- 作業環境の快適さの向上
・空気、室温、遮音対策、清潔感などの管理
・十分な作業空間の確保 - 作業方法の改善
・作業を行う姿勢の改善、筋力への負荷がかかりすぎない作業方法の取り入れなど - 疲れをとるための設備
・横になれるなど、くつろげる休憩スペースの設置
・運動施設や緑地の整備など - その他
・トイレや更衣室などを清潔に保つこと
・食堂、給湯施設、談話室などの確保と清潔感
- 作業環境の快適さの向上
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(4)交通労働災害の防止
通勤中や、業務上の移動中などに交通事故に遭ってしまう労災を、「交通労働災害」といいます。交通労働災害は頻発しており、事業者に対して予防する方策が求められています。
実際、労働安全衛生法第59条では、労働者に対して安全衛生のための教育を行うことが求められており、それを受けて厚生労働省では「交通労働災害防止のためのガイドライン」が発表されています。
このガイドラインでは、次のような実施事項が定められています。- 交通労働災害防止のための管理体制を作ること
・安全管理者などを選任。同時に、安全管理者の役割や責任、権限を定めます。
さらに、管理者に教育を行います。
・交通労働災害防止のための指針を発表し、目標を定めること
・安全委員会などで、交通労働災害予防についての調査・審議をすること - 労働時間や走行の適正な管理
・無理のない走行計画を作成し、運転者に指示を出すこと
・点呼の実施
・荷物の積み下ろしなどをする際の労働者の疲労への配慮
など - 教育の実施
・雇い入れ時や定期的な教育
- 交通労働災害防止のための管理体制を作ること
4、顧問弁護士を依頼すれば、経営リスクの低減が可能
経営者の方にとって、従業員が増えることは、会社の発展上喜ばしいことでありながら、目が行き届かない範囲も増える可能性があるため、従業員の健康や、良好な職場環境の維持にはより一層気を配らなければなりません。
特に、安全衛生管理は、従業員の心身の健康に直結する問題です。職場においてひとたび過労によるうつ・自殺や、機械を使った作業中の事故が生じてしまった場合、その従業員や家族に対して、大きな責任を負うことになります。また、社会的なバッシングを受けることもあるでしょう。
そのため、平時から、相談できる専門家を見つけておくことが重要です。
労働安全衛生法をはじめとする労働関係法を熟知している弁護士であれば、職場ごとに適切なアドバイスをすることが可能です。さらに、万が一労災事故が起こってしまった場合についても、経験を踏まえて対応することができます。
5、まとめ
今回は、労働安全衛生法を守るために経営者の方は何をすべきかについて解説いたしました。労働安全衛生法では、事業所の規模や業種に応じて、事業者に対して、さまざまな安全衛生対策を求めていることがご理解いただけたかと思います。
労働安全衛生法を意識し、しっかりと守ることは、従業員を守ることだけでなく、会社の健全な発展にも大きく寄与します。
ベリーベスト法律事務所には、お客さまの問題に対して最適な提案ができるよう、労働問題専門チームや業種別の専門チームを作り、体制を整えております。
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- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています