アルバイト(パート社員)を解雇するときの留意点やリスクとは?

2021年04月13日
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アルバイト(パート社員)を解雇するときの留意点やリスクとは?

日本企業の多くでは、正社員と非正規社員(パート、アルバイトなど)が一緒に働いています。

このうち非正規社員は、景気の変動に合わせて雇用量を調整するひとつの手段として、利用されていることも多くあるでしょう。

昨今の新型コロナウイルス感染症の影響で、経済状態が苦しくなった企業のなかには、アルバイトの社員を解雇することによって、人件費を抑えようとするところもあります。

茨木県の失業に関する動向をみると、令和2年8月分の雇用保険失業給付受給資格決定件数は、前年同月に比べ31.4%増加しており、これは9か月連続の増加です。

しかし、アルバイトとはいえ、企業の都合で自由に解雇はできません。

そこで、本コラムでは、アルバイト(パート社員を含む。)を解雇するときの留意点やリスクについて、水戸の弁護士が解説します。

1、アルバイトは解雇できるのか?

  1. (1)アルバイトであっても簡単には解雇できない

    アルバイトの社員については、正社員とは異なり、長期的な雇用は想定しておらず、短期・単発で雇われているため、簡単に解雇できるのではないかとお思いになる方もいらっしゃるかもしれません。

    しかし、アルバイトといえども、即日解雇できるわけではありません。

    そもそも差別的な理由(国籍、信条、社会的身分、性別など)での解雇はすることができません。また、就業規則に書いていない理由による解雇もできません

    さらに、それ以外の理由での解雇も、法律や過去の裁判例によって大きな制約が課せられています。

    労働契約法によると、その解雇が、

    1. 「客観的に合理的な理由を欠き」
    2. 「社会通念上相当であると認められない場合」
    (労働契約法第16条より抜粋)


    には、権利の濫用として無効となるとされています。

    ここにいう「合理的な理由」とは、一般に、労働者の労働能力が適格性を欠いたこと・労働者の規律違反行為・経営上の必要性(不況など)が挙げられます。

  2. (2)懲戒解雇ができる場合

    上記のような判例法理に基づくと、よほどの事情がない限り、アルバイトであっても解雇は難しいといえます。たとえば、1~2回遅刻をした、ささいなミスをした、仕事はできるが同僚とあまり仲良くしない、などの理由で解雇することはできません

    では、具体的にどのような事情があれば解雇することが認められるのでしょうか。

    たとえば、労働者の規律違反行為があった場合には、懲戒解雇を検討することになるでしょう。

    どのような場合に懲戒解雇ができるかは、個々の事案に応じて検討する必要がありますが、大まかにいうと、次のような場合には、懲戒解雇が認められることがあります。

    • 労働者が採用の際に学歴・職歴・犯罪歴などの経歴を偽っていた場合
    • 使用者からの有効な業務命令に労働者が従わなかった場合
    • 就業規則に記載された職務規律に違反する行為
    • 労働者が無断で(正当な理由なく)欠勤、遅刻、早退などを繰り返す場合
    • 会社の企業秘密を漏らした場合
    • 会社の財産を盗んだり、私的に利用した場合
    • 副業が禁止されている場合に、会社に隠れて副業をした場合
  3. (3)整理解雇ができる場合

    次に、会社が経営不振などの経営上の理由により人員削減をする場合、すなわち整理解雇について解説します。

    整理解雇は、労働者側の事情を理由とした解雇ではないことから、一般の解雇と比較してより厳しい要件が必要となります

    整理解雇の要件については、今までの裁判例の積み重ねによって、次の4要件が設定されています。

    1. ①人員削減の必要性
    2. ②解雇回避努力
    3. ③人選の合理性
    4. ④手続きの妥当性

2、アルバイトを解雇するときの手続きの流れ

アルバイトについて解雇事由が認められる場合でも、実際に解雇するにあたっては、次の手続きを踏む必要があります。

●解雇予告をしたうえで解雇する
解雇は、使用者が一方的にする行為であることから、労基法は、労働者の経済的損失を和らげるために、30日の予告期間を設けることを義務付けています (労基法20条1項)。

●解雇予告をせずに解雇する
使用者が労働者に対し、30日前までに解雇予告をしない場合であっても、30日分以上の平均賃金(予告手当)を支払うことによって、解雇することができます (労基法20条1項)。

この予告日数は、1日分の平均賃金を支払った日数だけ短くできます(同条2項)。

また、懲戒解雇する場合には、使用者が管轄の労働基準監督署に届け出をし、解雇予告除外認定を受ければ、上記の解雇予告手当を支払う必要はなくなります。

3、適正な手続きを経ない解雇で被るリスクとは?

次のような事例を考えてみましょう。

テークアウトの飲食店でレジを担当するAさんは、ある日客からの注文を打ち間違え、間違った商品を提供しまった結果、お客さんから注意を受けてしまいました。それを知った同店の店長は、Aさんを呼び出し、「そんな初歩的なミスをするなんてとんでもないことだ。君は明日から来ないでいい。今日限りで懲戒解雇だ。」と言いました。

店長がこのような経緯でAさんを解雇してしまった場合には、どのようなリスクを被る可能性があるでしょうか?


上記の事例にはたくさんの問題点がありそうです。

上記の事例のように、1回注文を取り間違えることは、解雇できる事情にあたるでしょうか?答えはもちろんNOです。

このような事情で解雇されてしまっては、誰も安心してアルバイトができなくなってしまいます。

この点をいったん置いておくとしても、上記で解説したとおり、即時解雇は原則としてできません。解雇予告もしていないうえ、解雇予告手当を払っていないことも、労基法に違反しています。

上記のように、解雇できるような事情がないのに解雇された場合は、その解雇は無効となります(労働契約法16条)。そのため、Aさんとしては、職場に復帰する手だてがあるわけです。

たとえば、Aさんとしては、店との雇用関係がまだ続いている確認を求める訴訟を起こす、といった方法が考えられます。つまり、店側からすれば、このような法的手段を取られてしまうリスクがありますし、上記の裁判に敗訴した場合には、Aさんに賃金や慰謝料などを支払わなければならなくなります

また、インターネットやSNSが普及した今日においては、企業の違法行為は、瞬く間に世間に知れ渡るでしょう。

従業員を違法に解雇したという事実が拡散された場合、企業の評判を大きく損なうリスクもあります。

4、アルバイト解雇時に、留意すべき点とは?

不況などによって人員整理の必要性があるときに、正社員に先立って、アルバイトやパートの労働者を解雇の対象とすることがあります。このような企業側の対応には、問題があるのでしょうか。

この点について、判例は、簡易な手続きにより採用されている非正社員(アルバイト、パート)と、終身雇用の期待のもとで雇用されている正社員との間には当然に合理的な差異があり、正社員への退職希望者の募集に先立って、非正社員の解雇をすることも不合理とはいえないとしています(最一小判昭和61年12月4日)。

もっとも、アルバイトの解雇であっても、解雇権濫用法理が適用されるような場合には、客観的に合理的で社会通念上相当といえる理由が求められます。

たとえば、不況による経営難を理由にアルバイトを解雇する場合、整理解雇の法理が適用され、①経営上の必要性、②解雇の回避努力、③人選の合理性、④手続きの妥当性の観点から、解雇の合理性・相当性が判断されます。

5、まとめ

アルバイトであっても、そう簡単には解雇できないこと、および解雇する場合には労働法規や判例に注意しなければ、知らず知らずのうちに違法な解雇をしてしまう可能性があることを解説しました。

企業側にとっても、労働者側にとっても、解雇を巡る紛争は避けたいものです。

そのため、特定の従業員を解雇することを検討している企業は、まずは一度弁護士に相談し、その解雇を実行しても問題がないかどうか、確認をすることをおすすめします。

また、すでに解雇をしてしまった後で、元労働者との間でトラブルになってしまった場合には、法的な戦略を練っての対応が必要となりますので、労働事件に詳しい弁護士に相談しましょう。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています