労基法における年少者とは? 未成年を雇用する際注意すべきポイント
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水戸市が公表している「令和3年版統計年報」によると、水戸市内に住民票を置く15歳から19歳の方は12302名おられます。中には、アルバイトや社員として就労することを希望し、会社としても雇用するケースは少なくないでしょう。
他方で、いわゆるブラックな労働環境が深刻な社会問題として取り上げられ、労働法違反の取り締まりは年々厳しくなっています。中でも、雇用において注意しなければならないのは、未成年者についてです。労働基準法(労基法)には、未成年の労働者を特別に手厚く保護する規定が設けられています。
万が一、成人と同じ条件で労働させていると、労働基準法違反になるおそれがあります。知らなかったでは済まされないため、未成年の雇用の際にはしっかりと把握・対策しておくことが重要です。そこで今回は、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が、未成年の雇用ルールについて詳しく解説します。
1、労働基準法における未成年の扱い
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(1)未成年者は2つに区分される
労働基準法では、民法上“未成年者”にあたる労働者を、“年少者”、“児童”の2つに分類し、それぞれの年齢に応じた保護規定を設けています。なお、“未成年者”とは、令和4年3月31日までは満20歳未満でしたが、民法改正により令和4年4月1日以降は満18歳未満となりました。
- 年少者……満18歳未満
- 児童……満15歳に達した日以後最初の3月31日が終了するまで
以下、それぞれを解説します。
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(2)年少者(満18歳未満)
労働基準法上の年少者は、満18歳未満の者を指します。これは、令和4年4月1日以降であれば、未成年者と同じ年齢です。未成年者については、親権者・後見人が本人の代わりに労働契約を締結すること、本人に代わって賃金を受け取ることを、原則として禁止しています。
未成年者が本人の意思に反して労働を強制され、経済的に搾取されないための規定です。
なお、令和4年3月31日までは、労働基準法上の未成年者は、満20歳未満の者とされていました。
そもそも、労働基準法第57条においては「使用者は、満十八才に満たない者について、その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けなければならない」としており、必ず年齢を証明できる戸籍証の提出を求める必要があります。
また、高校生の場合は学業を優先させるため、“アルバイトは原則禁止・必要な場合のみ事前に許可を得ること”が校則に定められていることもあります。法的な効力はありませんが、後々のトラブル回避のため、公的証書と併せて学校の許可証などの提出を求めるのが望ましいでしょう。 -
(3)児童(中学生以下)
労働基準法上の児童は、“満15歳に達した日以後、最初の3月31日が終了するまで”と定義されています。
中学生以下の児童については、原則として労働者として使用することが禁止されています。
ただし例外的に以下の場合に限り、必ず監督署長の使用許可を得た上で労働させることが可能とされています。この場合でも、学業を優先させるため、労働時間は“修学時間外のみ”です。- 満13歳以上満15歳に達した日以後、最初の3月31日までの児童 健康や福祉に有害でない非工業的な仕事で、かつ軽易なものに限る
- 満13歳未満の児童 映画や演劇(子役など)に限る
上記のルールに違反して児童を労働させた場合、“1年以下の懲役、または50万円以下の罰金”を科されるおそれがあります。必ず、事前に公的証明書で正確な年齢を確認しましょう。
2、未成年を雇用する際の注意点
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(1)雇用契約は本人の合意が必要
親権者・後見人が未成年者の代わりに雇用契約を締結することは、禁止されています(労働基準法第58条)。そのため、未成年者との雇用契約は、原則、本人との合意のもとに締結する必要があります。
これは、未成年者が本人の望まない労働を強制させられ、不当に搾取されないための定めであり、もし親権者・後見人と雇用契約を締結した場合には、契約は無効となります。
一方で、未成年者が本人にとって不利益な雇用契約を締結させられた場合には、親権者・後見人は未成年者に代わって契約を将来に向かって解除することができます。“将来に向かって解除する”とは、契約締結時から解除を伝える時点までの期間については、雇用契約が有効だということです。 -
(2)賃金は本人へ支払う
賃金の支払いは、必ず未成年者本人に対して直接行う義務があります(労働基準法第24条・第59条)。そのため親権者・後見人へ支払うことがないよう、注意しましょう。理由としては、(1)と同じく、未成年者が経済的に搾取されないようにするためです。
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(3)公的証明書による年齢確認を怠らない
未成年者の労働者を雇用する場合には、必ず公的証明書(住民票など)によって事前に年齢を確認しなければなりません。中には、やむを得ない事情から、年齢を偽って応募してくる未成年者や年少者、児童もいるかもしれません。
自己申告のみを信用して成人と同じ労働条件で採用してしまうと、のちに事実と異なることが判明した場合、雇用主側が労働基準法違反の責任を追及されるおそれがありますので、十分に注意しましょう。
3、年少者を雇用する際の注意点
未成年者の“親権者・後見人による雇用契約締結の禁止“親権者・後見人による賃金受領の禁止”に加えて、年少者については以下のような規定が設けられています。
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(1)年齢証明書を事業所に備え付ける
年少者を雇用している会社では、年齢証明書(戸籍証明書、住民票記載事項証明書など)を事業場に備え付けることが義務付けられています(労働基準法第57条)。
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(2)残業・休日労働をさせてはいけない
年少者には、残業・休日労働をさせてはいけません(労働基準法第32条・第60条)。労働基準法では、労働時間は原則として“1日8時間・週40時間”以内とされています。満18歳以上の労働者であれば、事前に労使で36協定を結んで合意していれば残業をさせることもできますが、年少者は合意があっても残業・休日労働をさせることはできません。肉体的に未熟な年少者を、過酷な労働から保護するためです。
ただし、非常災害時の業務や、農林水産業に従事する年少者については、残業・休日労働が認められることもあります。 -
(3)深夜労働をさせてはいけない
午後10時から翌日午前5時までの労働は、“深夜労働”と呼ばれています。年少者には、深夜労働をさせることは原則として禁止です(労働基準法第61条)。深夜労働は、年少者の健康にとって有害であるからです。
ただし例外的に、以下の場合にのみ認められる可能性があります。- 交代制により働く満16歳以上の男性
- 農林水産業
- 行政官庁の許可により交代制で午後10時半まで勤務する場合
- 非常災害時に行政官庁の許可を受けた場合
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(4)変形労働時間制は適用できない
変形労働時間制やフレックスタイム制は、年少者には適用できないとされています(労働基準法第60条)。
変形労働時間制とは、一定期間内の総労働時間を超えない範囲であれば、特定の日(週)に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えてもよいとする制度です。
一方フレックスタイム制は、1か月を平均して週の労働時間が法定労働時間を超えない範囲であれば、労働者自身が始業・終業時刻を自由に決められる制度です。
ただし例外的に、“満15歳に達した日以後の最初の3月31日から満18歳未満の者”は以下の条件に限って、変形的な労働時間を設定することも可能とされています。- 総労働時間を週40時間以内にとどめること、週の内1日を4時間以内に短縮することを前提に、他の日に10時間まで労働させること
- 週48時間・1日8時間の範囲内で、変形労働時間制(月単位・年単位)により労働させること
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(5)危険・有害な仕事をさせてはいけない
肉体的・精神的に未熟な年少者の健康と福祉を守るためにも、原則として危険・有害な労働をさせてはいけないとされています(労働基準法第62条・63条)。たとえば、重量物・毒劇物を取り扱う業務、接待を伴う飲食店の業務などです。
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(6)解雇した年少者の帰郷旅費は負担する
解雇した年少者が、解雇の日から14日以内に実家に帰る場合には、使用者は旅費(引っ越し代含む)を負担しなければなりません(労働基準法第64条)。
ただし、解雇されて14日以内に帰郷しない場合は、その限りではありません。また、本人の不正による解雇や、自己都合による退職の場合には、帰郷旅費を負担しなくてもよいとされています。
4、全年齢の労働者に共通する注意点
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(1)地域別の最低賃金以上を支払う
労働者の年齢に関係なく、地域別に定められている最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。
もし労働契約締結時に使用者と労働者の間で最低賃金以下の金額に合意していたとしても、その合意は法律上無効となり、自動的に最低賃金の金額に修正されます。したがって、労働者から賃金の支払いを請求された際には、最低賃金に基づいて算出された金額を支払う義務を負うことになります。
なお茨城県の最低賃金は、令和元年10月1日から時間額849円(改正前822円)に引き上げられています。 -
(2)労働条件を書面で明示する
労働者を雇用する際には、以下の労働条件を明示した書面を渡すことが法律上義務付けられています(労働基準法第15条)。
- 労働契約の期間・更新の基準
- 就業場所
- 業務内容
- 始業・終業時刻、休憩時間
- 休日・休暇
- 時間外労働の有無
- 賃金の金額、支払い時期、支払い方法、昇給
- 退職、解雇事由
労働契約書の作成は法律上義務付けられていませんが、雇用者とのトラブルを防止するために、なるべく交付することが望ましいでしょう。
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(3)労働時間・休憩時間・休日についての定め
労働基準法では、労働時間は“1日8時間・週40時間”までにとどめるのが原則です(労働基準法第32条)。
時間外労働(残業)をさせたい場合には、あらかじめ労使で時間外労働について合意する“36協定”を結ぶ必要があります(労働基準法第36条)。ただし年少者の場合には、合意に関係なく時間外労働をさせることは違法です。
休憩時間と休日のルールにおいては、労働時間が1日6時間を超える場合は、間に45分以上の休憩時間を設けなければなりません(労働基準法第34条)。さらに、“週1日以上、または4週に計4日”の休日も、必須となっています。
これに違反した場合は、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金を科されるおそれがあります。
5、労働基準法違反になるケースと罰則
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(1)未成年の雇用における違反ケース・罰則
前述の通り、未成年者については“親権者・後見人による雇用契約締結の禁止”、“親権者・後見人による賃金受領の禁止”が規定されています(労働基準法第58条、第59条)。
これに違反すると、30万円以下の罰金を科されるおそれがあります。 -
(2)年少者の雇用における違反ケース・罰則
- 年齢証明書の備え付け義務(労働基準法第57条) 30万円以下の罰金
- 時間外・休日労働の禁止(労働基準法第32条、第60条) 6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金
- 深夜労働の禁止(労働基準法第60条・61条) 6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金
- 変形労働時間制・フレックスタイム制の禁止(労働基準法第32条2から5、第60条) 6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金
- 危険・有害労働の禁止(労働基準法第62条・63条関係) 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 帰郷旅費の負担(労働基準法第64条) 30万円以下の罰金
6、まとめ
未成年を雇用する際に困ったことや疑問点があれば、ベリーベスト法律事務所の弁護士までご相談ください。必要書類の作成から労働法順守のアドバイスまで、トータルでサポートいたします。
未成年の労働基準法違反は、懲役を含む厳しい処罰を受けるおそれがあり、程度によっては厚生労働省によって企業名を公表されるケースもあります。口頭だけの確認や自己申告のみで判断するのではなく、雇用の際には、必ず事前に公的証明書による年齢確認を行いましょう。
未成年の雇用に関してお困り・お悩みがあれば、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています