契約の効力発生日っていつになるの? 民法の基本を弁護士が解説
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水戸市は商業・サービス業を中心とした産業が発達しています。そして、さまざまな会社が会社や顧客と契約に基づいた経済活動を行っています。
契約書において重要な項目のひとつが、契約の効力発生日です。なぜなら、これにより契約当事者の債権債務関係のスタート時点が確定するからです。
そこで本コラムでは、契約の基本から効力発生日についての注意点、そして契約書でトラブルになるリスクを最小化する方法について、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説します。
1、そもそも契約とは?
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(1)契約とは?
日常的な言葉で「契約」を言い換えると、約束ということになります。
ただし、契約はその内容を相手方が守られなければ裁判所に頼んで強制したり、損害賠償を請求できるという法的効力のある点が、単純な約束と異なります。 -
(2)契約書の重要性
契約は合意さえあれば、契約書がなくても成立します。
しかし、合意は目に見えません。契約書を作成しておけば、あとで合意の有無について争いになったときに、合意があったと主張するための証拠となります。
また、宅地建物取引業者の行う不動産売買では、法律で顧客へ一定の契約条項を記載した書面の交付義務が課され、違反には罰則が適用される例もあります。
一般的な契約書では、まず題名が掲げられ、その後に数行の前文があり、そして第1条が始まり、以下条文が続きます。最後に末尾文言があって、契約締結日を記し契約当事者が調印することになります。もっとも、契約当事者の調印および契約締結日が冒頭に置かれる形式のものもあります。
このとき、もし契約締結日がブランクのままだと、いつ契約当事者が合意したのかが不明確になってしまいますので、証拠としての効力が弱くなってしまいます。
2、契約の効力発生日はいつ?
契約が成立し、その効力が発生するときは契約当事者間の「合意」が成立したときです。
合意は、「申し込み」と「承諾」により成立します。
申し込みとは、「契約締結を目的とする確定的な意思表示」のことです。申し込みの意思表示は、民法第97条第1項の規定により原則として申し込みが相手方に到達したときに成立します。
また、承諾とは、「契約締結のために、ある特定の申込みに対してなされる意思表示」のことです。承諾が有効となり、契約の効力が発生するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 承諾が申込受領者から、申込者に対しなされること
- 申し込みが有効な期間中に承諾がなされること
- 承諾の内容が、申し込みの内容と一致すること
では、契約当事者間の合意が成立するのは、どのタイミングなのでしょうか。
当事者たちが直接対面していたり、あるいは電話などのリモート手段による「対話者間の契約」については、特に民法で規定されているわけではありません。したがって、先述した民法第97条第1項の規定よる「承諾の意思が申込者に到達したタイミング」で契約は成立することになります。これは、郵送などで契約を締結する場合についても同様です。
3、作成日と効力発生日がずれる契約は可能?
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(1)停止条件付契約
契約の効力が発生するための要件として、条件を設けることもできます。このため、契約書の作成日と効力発生日がずれる場合も起こり得ます。
このような条項のついた契約を、「停止条件付契約」といい、このような契約を締結することを「停止条件付の法律行為」といいます。
停止条件付の法律行為とは、たとえば、売り買いする物が、買い主の意向通りであることを確認した日を売買契約の効力発生日とする、といった契約などのことです。
そして、停止条件付契約では、上記の例でいうと売買対象物が買い主の意向通りの状態になっていることを買い主が確認したとき、つまり停止条件が成就したときから契約としての効力が発生します(民法第127条第1項)。
したがって、この契約が有効に成立しても、条件が成就するか分からない間は契約の効力は発生しません。この結果、契約書の作成日が前日付となり、効力発生日が後日付となるのです。 -
(2)停止条件付契約の注意点
ただし、条件の成就によって利益を受ける契約の当事者は、条件が成立するかどうかわからない状況の間でも、その利益を得られるかもという期待があるでしょう。
そこで、この契約を結んだ当事者は、民法第128条の規定により、条件の成否未定の間は相手方の利益を害することはできない、と定められています。
また、条件の成否未定の間は、当事者は、民法第129条の規定により、目的物を処分・相続・保存などすることができます。
さらに、条件の成就によって不利益を受ける当事者が、条件の成就を妨害することは、不当な行為として禁止されています。そのため、このような行為があった場合には、相手方はその条件を成就したものとみなし、契約を実行することができます。
なお、成就する可能性のない条件を付けた契約は、そもそも実現が不可能なわけですから、民法第133条第1項の規定により無効です。
4、契約書の作成日を過去にすることはできる?
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(1)基本は合意が成立した日が契約書の作成日
たとえば1月15日に契約当事者の合意が成立し、契約書の作成といった事務作業などの都合から実際の契約締結が2月1日になった場合、契約書を1月15日付で作成し、この日を効力発生日とすることは、問題ないと考えられます。
これは、契約書が持つ、合意成立を証明するという法的な存在意義から、実際に合意が成立した日、イコール効力発生日を契約書の作成日とすることは、むしろ自然という見方ができるためです。 -
(2)契約書のバックデートは注意
しかし、実際に合意が成立した日よりも契約書の作成日を過去にすること(バックデート)、たとえば1月15日に契約当事者の合意が成立したのにもかかわらず、契約の効力発生日を1月1日にしたいため恣意(しい)的に作成日を1月1日にすることは、問題があると考えられます。
なぜなら、先述のとおり契約書は合意成立を証明する書面です。したがって、実際に契約当事者の合意が成立した日と、契約書の日付が異なることは、虚偽表示の一種と考えられるためです。そして、虚偽表示が認められた場合、民法第94条第1項の規定により、日付が無効とされる可能性があるのです。 -
(3)遡及契約を活用しよう
このように、契約書の作成日を実際に合意が成立した日よりも過去の日付とすることは虚偽表示として、コンプライアンス上の問題が発生するおそれがあります。
これを回避するために、何らかの事情でどうしても契約書の作成日を実際に合意が成立した日よりも過去の日付としたい場合は、「遡及契約」とすることをおすすめします。
遡及契約とは、契約書にその旨を記載することによって、過去のある時点までさかのぼって契約の効果を生じさせる契約です。具体的には、「契約締結日にかかわらず、(任意の日付)にさかのぼって効果を生じるものとする。」といった条項を、契約書に設けることにより契約日に遡及効果を持たせることができます。
5、業務をスムーズに進めるためにも、顧問弁護士の検討を
事業を展開していくうえで、取引先との契約締結は避けて通ることはできません。
そのとき、契約書の内容が法的にも実務的にも不十分だと、あなたの会社に損失が出てしまったり契約そのものが無効になることがあります。
そのような事態を避けるために、ぜひ顧問弁護士の活用をおすすめします。
顧問弁護士とは、顧問弁護士契約を締結することで、依頼人の法務に関する相談や実務を優先的に行う弁護士のことです。
その特徴は、依頼人にとって、ある程度の専属性があることです。たとえば、依頼人と利害関係にある第三者からは、依頼人の了解がないかぎり業務を引き受けない、と取り決めることもできます。
依頼人が置かれている状況を理解し、企業法務のノウハウを持った弁護士と契約締結をすれば、法的トラブルの優先的な解決だけではなく、事業拡大のための有益なアドバイスを受けることも期待できます。
顧問弁護士は法的知見を駆使し、依頼人である、あなたの会社の立場に立って契約書の草稿を作成し、あるいは取引先が提示してきた契約書の内容が妥当なものかを厳重にチェックします。
契約書に関する実務を顧問弁護士にまかせることにより、契約によってトラブルが発生するリスクを抑えることができます。
6、まとめ
契約書は、会社が他社や顧客と経済活動を行うための根幹といっても過言ではありません。その作成には、弁護士のような専門家とご相談しながら進めることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスでは、契約書に関するご相談から顧問弁護士契約の締結まで承っております。ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています