親にたかる子どもに対して法的対処法はある? 水戸の弁護士が解説

2021年05月14日
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親にたかる子どもに対して法的対処法はある? 水戸の弁護士が解説

茨城県内の家事事件を取り扱う水戸家庭裁判所では、令和元年度には48件の親族間の紛争に関する調停申立てがなされています。
親族間の紛争は、関係者のつながりが濃いことに加え、外部が介入しにくいことなどから深刻な事態に至ってしまうことも少なくありません。
たとえば「年金暮らしなのに成人した子どもからたかられる」「お金を渡さないと暴力を振るわれる」といった問題に悩む方もいます。解決策の選択肢として、わらをもつかむ気持ちで法的手段による対処法を探している方もいらっしゃることでしょう。

本コラムでは、親にたかる子どもにできる法的手段を含めた対処法について、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説していきます。

1、子どもの要求がエスカレートしたら注意!

成人した子どもが親にたかるケースでは、親の側は「かわいい子どもであることには変わらないので苦労させたくない」「自分の育て方が悪かったのだから自分の責任として支払うしかない」「将来的には自分の面倒をみてくれるかもしれない」など、さまざまな理由や考えからお金を渡してしまっていることもあります。

直接現金を渡すわけでなくても、親が借金の連帯保証人になることなども、子どもが借金を返済しなければ親に返済義務が生じるので実質的に同じことです。
しかし子どものためによかれと思って行った金銭的援助であっても、最終的には子ども自身の自立を妨げてしまい親の老後の家計を切迫させる可能性があります。
子どもの要求がどんどんエスカレートするようになり、親が支払いを拒否すると暴力的な言動がみられるようなときには、外部に相談して法的手段も含めた対応を検討する必要性が高いといえるでしょう。

2、親が子どもに対してできる対処法

親にたかる子どもに対しては、次のような対処法が考えられます。

  1. (1)子どもへの接し方を考え話し合う

    まずはご自身の子どもへの接し方を改めたうえで、話し合いで解決することができれば理想的ではあります。
    子どもからのお金の要求がエスカレートするようであれば、親は決然とした態度で対応することも必要です。そして子どもが大切だからこそお金を渡すことができないことを伝え、子どもが自分自身のためにならないことを自覚できれば解決につながる可能性が高まることでしょう。

  2. (2)相談窓口に相談する

    親子関係など家庭内の問題には、外部の介入がないことでエスカレートしてしまうことが少なくありません。そのため可能な限り早くから外部に相談して、客観的な視点で冷静に解決策を探っていくことが重要です。

    暴力がエスカレートしている場合などに相談できる先のひとつとして、茨城県警察が開設する「県民安心センター」があります。
    県民安心センター総合相談では、「犯罪などによる被害の未然防止に関する相談」と「茨城県民の皆さんの安全と平穏」についての相談を受け付けています。詳しくはホームページなどで確認するとよいでしょう。

    またお住まいの市区町村のホームページなどにも、相談窓口の案内が掲載されていることが多いものです。そういった相談窓口に連絡するなど、外部への発信が重要な対処法になります。

  3. (3)弁護士に相談する

    子どもと話し合いができない場合や、危険性を感じるような場合には、弁護士に相談することも有益です。
    弁護士は、ご相談者の代理人としてお子さんと話し合うこともできます。また、第三者が入ることで、感情的にならずに冷静に話し合いを進められることも少なくありません。
    そして弁護士は、次の章で解説する調停手続きや法的手段についても、適切なアドバイスを行うことができます。
    弁護士が介入することが抑止力となり、「親だから何をしても許してくれるだろう」といった子どもの甘い認識が改まることも期待できるでしょう。

  4. (4)親族関係調整調停申立てを行う

    親にたかる子どもには、法的対処法として家庭裁判所に「親族関係調整調停」の申立てをして解決を図ることも考えられます。

    「親族関係調整調停」とは、親族間で生じる感情的対立や財産管理の紛争などから親族関係がうまくいかなくなった場合に、円満な関係を回復するための家庭裁判所の調停手続です。

    原則として、相手方(子ども)の住所地の家庭裁判所に申立書とその写し1通を提出して、申立てを行います。申立てにかかる費用は、収入印紙1200円分と連絡用の郵便切手代です。

    調停では、調停委員などが親子双方に事情を聴いたり必要な資料を提出させたりして、解決策の提示やアドバイスをして解決を図ります。
    ただし親族関係調整調停は、あくまで話し合いの場です。子どもが調停での話し合いを拒否している場合には、調停での解決が難しいという問題があります。

3、親への暴力や恐喝は罪になる?

子どもがお金の要求をする際に暴力や恐喝を行った場合には、親は子どもを刑事上の罪に問うことができるのでしょうか。

刑法には「親族相盗例」という特例が設けられています。これは、親子や夫婦などの親族間での罪に対して、刑は免除されるというものです。ただし、すべての犯罪が該当するわけではなく、一部の罪にのみ適用されます。

恐喝罪はこの特例が準用されるので、子どもの親に対する恐喝罪が成立する場合でも刑罰に処されることはありません。

一方、子どもが暴力を用いてお金を奪いとるといった場合には、強盗罪が成立する可能性があります。強盗罪には、特例の準用がないため刑罰に処される可能性はあります。

親に対して暴力を振るい、その結果怪我をさせることがあれば傷害罪が成立しますが、傷害罪も特例の準用はないので刑罰に処される可能性はあるでしょう。
しかし親子間では、子どもが刑に問われることをためらい、被害届を取り下げてしまうケースも少なくありません。

4、法的に「子どもと縁を切る」ことはできる?

「縁を切る」「勘当する」という言葉が使われることがありますが、親にたかる子どもとの縁を切ることは可能なのでしょうか。

  1. (1)法律上縁を切ることはできない

    残念ながら現在の法律では、親と子どもの縁を法的に切ることはできません。

    気になるのは、親は子どもを扶養する義務が生じ続けるのかという点でしょう。
    民法では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定めています(民法877条第1項)。
    ただし、扶養の程度や方法は、扶養権利者の需要や扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して定められます。そのためたとえば年金暮らしの親に十分に働けるはずの子どもがたかっているような場合には、親には子どもに対する扶養義務が生じない可能性があります。

    また、法律上の縁を切ることができず扶養義務があるからといって、子どもの借金を当然に親が返済しなければならないということにはなりません。

    なお、養子縁組によって生じた親子関係であれば、離縁することで親子関係を解消することができ、法律上で縁を切ることができます。

  2. (2)子どもに財産を渡したくないときにできる法的対処法とは

    子どもと話し合いで解決できる状態ではなく、トラブルばかりを起こす状況であれば、財産の一切を残したくないと考えるのも自然なことでしょう。法律上縁を切れない以上、子どもは法定相続人になります。しかし、法的に縁を切ることはできなくても、ご自身の相続から除外することは可能です。

    たとえば母と、成人した姉と妹の三人の家族で、姉が自分で働くことなく母に自分の生活費などを頻繁にせびっているケースでみていきましょう。
    このケースにおける母は、妹に全財産を相続させる旨の遺言書を残しておくなどの方法で自身の相続から姉を除外することが可能です。
    ただし、子どもは親の相続に関して遺留分(一定の相続分)を有しているので、姉が妹に遺留分を請求した場合には相続財産の一部は姉のものとなります。
    もし、姉に対して一切の財産を相続させたくないときには、相続人の廃除を検討することもひとつの方法です。

    相続人の廃除とは、被相続人となる方が生前に家庭裁判所に請求し、審判によって遺留分を有する推定相続人の相続権をなくす手続きです。
    廃除の請求ができるのは、推定相続人が被相続人となる人に虐待や重大な侮辱を加えたときや、推定相続人にその他の著しい非行があったときです。

    前述の例でみた場合、姉にこのような事実が認められるときには、廃除を請求するという法的対処法をとることができるでしょう。

5、まとめ

本コラムでは、「親にたかる子どもにできる法的手段を含めた対処法」について解説していきました。
親にたかる子どもに対しては、法的対処法としては「親子関係紛争調停」を家庭裁判所に申立てて調停委員を交えて話し合うことが考えられます。
しかし具体的事案の深刻さなどに応じて、その他にも警察や裁判所と連携して取りうる法的手段があります。ご家族の問題はご家庭だけで悩みを抱えてしまうことも多いものですが、弁護士などの第三者に相談することが解決のきっかけになる可能性があります。

ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士は、ご相談者のお気持ちに寄り添いながら法的な解決策をアドバイスすることができます。土曜日の来所相談も受け付けておりますので、ひとりで悩むことなく、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています