あおり運転は犯罪! 問われうる罪と科される刑罰とは
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令和5年7月、茨城県警察本部が水戸市にある常磐自動車道インターチェンジ近くの駐車場で、あおり運転の取り締まり強化に向けた出発式を行ったことが報道されました。報道によると、県内の高速道路におけるあおり運転の検挙件数は、前年の2倍近くに増えているとのことです。
あおり運転は、これまでは単なるマナー違反程度に認識されていました。ところが、あおり運転に起因した悲惨な死亡事故が発生したことが契機となり、平成30年1月以降、警視庁が取り締まり強化を通達、さらにあおり運転を厳罰化した改正道路交通法が令和2年6月30日から施行されました。
つまり、あおり運転をすると、たとえその場でトラブルにならなくても、後日になって事件化され、逮捕されてしまうケースがあるのです。今回は、あおり運転の定義や態様、あおり運転が暴行罪に問われるケースなどを、水戸オフィスの弁護士が解説します。
1、あおり運転の定義と例
あおり運転は、以前より取り締まりの対象ではありましたが、単に周囲の事情や他のドライバーに対する思いやりのない「マナー違反」という認識が浸透していました。しかし、マナー違反の域を超えて、他人の生命を奪いかねない危険な行為として認識されるようになったことによって、より厳しい処分が下されるようになっています。
まずは、あおり運転とはどのような行為を指すのか、具体例などを解説します。
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(1)あおり運転とは
一般的には、道路を走行中の特定の車両に対して、走行の妨害を目的として行う危険で悪質な運転のことを「あおり運転」と呼びます。
あおり運転によって痛ましい交通事故が発生したニュースを見聞きしたり、悪質なあおり運転による恐怖が生々しく記録された映像が配信されたりと、あおり運転の危険性は、すでに周知されつつあるといってよいでしょう。これを受けて前述の通り、あおり運転を厳罰化した改正道路交通法が令和2年6月30日から施行されました。
警察では、あおり運転をされたら、以下の行動をするように呼びかけています。- 相手にしない
- 安全な所に停車する
- 窓を開けない・車外に出ない(ドアロックをする)
- ためらうことなく110番する
状況によっては、ドライブレコーダーの録音や、同乗者によるスマホなどの撮影が検挙に役立つことがあります。
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(2)あおり運転の具体的な例
あおり運転といえば、後続車両による嫌がらせを想像する方が多いでしょう。具体的には、以下のような行為があおり運転に該当します。
- 車間距離を極端に狭める(車間距離不保持)
- 妨害目的のクラクションやパッシング(警音器使用制限違反、減光等義務違反)
- 前方の車をしつこく追い回す、必要以上に幅寄せする(安全運転義務違反)
- 強引や割り込みや追い越し(進路変更禁止違反、追い越し禁止違反)
- 後続車両に対する嫌がらせ目的でわざとブレーキをかける(急ブレーキ禁止違反)
- 高速道路などで不必要にノロノロ運転をする(高速自動車国道における最低速度違反)
- 高速道路などで後続車両を停車させる目的で強引に駐停車する行為(高速自動車国道における駐停車違反)
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(3)あおり運転への取り締まり
平成30年6月に行われた「あおり運転一斉取り締まり」では、車間距離保持義務違反による検挙が最多となりました。まさに、「あおる」という行為が取り締まりの重点対象となったのです。
そのほかでは、追い越し方法違反・進路変更禁止違反・合図不履行違反による検挙も目立ちます。
ただし、これは道路交通法に規定された、比較的軽微な違反です。
繰り返しになりますが、令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。したがって、前述したようなあおり運転に該当する行為をすれば、妨害運転罪が成立する可能性があります。
詳しくは以下のコラムをご覧ください。
>あおり運転が厳罰化! 令和2年創設の妨害運転罪について詳しく解説
>あおり運転に該当する違反行為とは? 逮捕された場合の罰則について
2、あおり運転で暴行罪など刑法犯になることも
平成30年1月の取り締まり強化以降、警察があおり運転に対して非常に厳しい姿勢で対処する必要があるとみなしたケースでは、「暴行罪」として立件しています。
なぜ暴行罪に該当するのかなどを知っておきましょう。
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(1)暴行罪とは
「暴行罪」とは、刑法第208条に定められた、暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときに成立する犯罪です。
これだけを聞くと、なんら自動車の運転には関係がないように感じるでしょう。ところが、暴行罪における「暴行」には、殴る・蹴るなどの直接的な暴力行為だけでなく、「当たらないように石を投げる」など、広く人の身体に対する不法な有形力の行使が含まれます。
あおり運転は、事故にならない限り、人の身体に対する攻撃ではないと考える方も多いかもしれません。しかし、相手がケガをする可能性が高いことから、相手に対する不法な有形力の行使として、暴行罪における「暴行」とみなされる可能性があります。あまりにも悪質であれば暴行罪が成立することがあり、実際にあおり運転をした結果、「暴行罪」として検挙されたケースが全国のニュースで報道されています。 -
(2)暴行罪の刑罰
あおり運転が暴行罪とみなされて、刑事裁判で有罪判決が下された場合は、「2年以下の懲役」もしくは「30万円以下の罰金」または「拘留(こうりゅう)」もしくは「科料(かりょう)」に処されます。
他方で、あおり運転に該当する行為によって、改正道路交通法における妨害運転罪として有罪になった場合は、以下のような刑罰が定められています。
●妨害目的であおり運転をした場合
…… 3年以下の懲役または50万円以下の罰金(道路交通法第117条の2の2第11号)
●妨害目的であおり運転をし、道路における著しい交通の危険を生じさせた場合
…… 5年以下の懲役または100万円以下の罰金(同法第117条の2第6号) -
(3)暴行罪以外の犯罪に該当するケース
あおり運転に関連し、妨害運転罪や暴行罪だけでなく、ほかの犯罪容疑で逮捕されることもあります。たとえばあおり運転を行って相手車両を停車させ、運転手に暴力を加えてケガをさせたり、あおり運転の結果、事故となって相手がケガをしたりすれば、傷害罪に問われることがあります。
傷害罪の法定刑は、「15年以下の懲役」または「50万円以下の罰金」です。なお、この場合、相手がケガをしていなくても暴行罪が成立する可能性があります。
また、あおり運転をしながら相手を怒鳴りつける、脅す言葉を投げかけるなどして恐怖心を与えた場合には、「脅迫罪」にあたるおそれもあります。法定刑は、「2年以下の懲役」または「30万円以下の罰金」です。
なお、平成30年7月に起きたあおり運転による死亡事故では、ドライブレコーダーに残った音声から運転者に殺意があったとみなされたことから、「殺人罪」で起訴されています。
あおり運転で逮捕された人の中には、割り込まれて腹が立ったからやったなど、気持ちのコントロールを失った結果、犯行に至ったケースが珍しくありません。そのため、危険運転にとどまらず、他の罪も犯してしまう危険性も存在しています。
※令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
>あおり運転が厳罰化! 令和2年創設の妨害運転罪について詳しく解説
3、あおり運転で逮捕された場合の流れ
あおり運転の現場を警察官が見ていれば、現行犯逮捕されます。一方、事件後の届け出などで立件された場合は、逮捕状の発付を受けて通常逮捕されて身柄拘束を受けることになる可能性があります。
刑事事件では、逮捕から起訴・不起訴処分の決定までに、最長で23日もの間、身柄を拘束されることがあります。
4、免許停止処分の可能性も
妨害運転罪や暴行罪が適用されるほどのあおり運転をするドライバーには、「危険性帯有者」の指定による行政処分が適用される可能性があります。
「危険性帯有」とは、車の運転によって著しい危険を生じさせるおそれがあることを指しています。危険性帯有者に指定されてしまうと、違反点数などに関係がなく、即時に免許停止処分が下されることがあります。日常にも大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
5、まとめ
ここでは、大きな社会問題として注目されているあおり運転について、あおり運転の定義や具体例、あおり運転が暴行罪に該当することなどを解説しました。もし、自分自身がちょっとしたいら立ちや焦りなどを感じてあおり運転をしたのであれば、大きな問題になってしまう前に、早急に弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談し、本当に自分の運転があおり運転になってしまうのか、あおり運転で事件化されたらどのように対処すべきかなどのアドバイスを受けましょう。
あおり運転で事件化される不安を抱えている方は、ベリーベスト法律事務所・水戸オフィスまでお気軽にご相談ください。交通事故や刑事事件の対応経験が豊富な水戸オフィスの弁護士が、状況に適した弁護活動を行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています