相場操縦とはどんな行為? 問われうる罪とは?
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令和3年11月、某証券会社の社員らが株価の維持を目的に“相場操縦”に関与したとして、証券取引等監視委員会が強制捜査に踏み切ったという報道がありました。
株式市場における価格形成を人為的にゆがめる行為は、金融商品取引法で禁止される相場操縦行為であり、刑事罰の対象とされています。意図していなくても、株式の注文や取り消しを行う際に、金融商品取引法が禁止する相場操縦行為に該当するリスクがあります。株式の取引を行う方は、どのような行為が相場操縦行為にあたるのかをしっかりと理解したうえで、取引を行うことが大切です。
今回は、相場操縦とはどのような行為か、相場操縦をした場合にはどのような罪に問われるのかについて、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説します。
1、相場操縦とはどんな行為か
相場操縦とはどのような行為をいうのでしょうか。
以下では、相場操縦取引の類型について説明します。相場操縦取引については、個人投資家であっても規制の対象になりますので、株式の取引にあたっては十分に注意して行う必要があります。
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(1)見せ玉
見せ玉とは、売買取引を成立させる意図がないにもかかわらず、大量の売買注文の発注・取消・訂正などを頻繁に繰り返す行為のことをいいます。見せ玉は、売買が頻繁に行われているものと他の投資家を誤解させて、取引を誘引することを目的として行われるものであり、不公正の度合いが高い取引として厳しく規制されています。
売買注文の発注・取消・訂正などが直ちに違法行為になるわけではありませんが、大量かつ頻繁に発注・取消・訂正を行う場合には注意が必要です。 -
(2)買い上がり・売り崩し
買い上がり・売り崩しとは、特定銘柄の株価を意図的に高く(安く)することによって、当該銘柄の株価が上昇(下落)していると他の投資家を誤解させて、取引をさせる行為のことをいいます。
直近の出来高と比較して大量の売買注文を断続的に発注したり、指値を1円刻みに高く(安く)した売買注文を断続的に発注したりする行為は、買い上がり(売り崩し)と判断される可能性があります。 -
(3)株価の固定・釘付け
株価の固定・釘付けとは、特定銘柄の株価を安定的に維持することを目的として行われる取引のことをいいます。たとえば、ある価格帯に大量の売り注文と買い注文を発注し、特定銘柄の株価を維持するような行為をした場合には、株価固定・釘付けと判断される可能性があります。
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(4)終値関与
終値関与とは、特定銘柄の終値を高く(安く)する目的で、立ち会い終了時の発注において大量または反復継続した注文の発注をする取引のことをいいます。
立ち会い終了間際での売買自体が違法行為になるわけではありませんが、継続的に終値に関与する取引などがあった場合には、終値関与と判断される可能性があります。 -
(5)仮装売買
仮装売買とは、特定銘柄が頻繁に取引されていると他の投資家に誤解をさせ、取引を誘引することを目的とした行為を指します。たとえば、権利移転を目的とせず、同一人物が同時期に同じ価格で売買双方の注文を発注するなどです。
したがって、信用取引の期日の到来に伴う乗り換え目的以外のクロス取引や別々の証券会社を利用した取引は、仮装売買と判断される可能性があります。 -
(6)馴合い通謀売買
馴合い通謀売買とは、あらかじめ口裏を合わせて投資家同士の間で同時に取引をすることで、特定銘柄の取引が頻繁に行われているものと他の投資家を誤解させて、取引を誘引することをいいます。
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(7)高(安)値形成売買
高(安)値形成売買とは、特定銘柄の価格を高く(安く)することを目的として、当日の高値(安値)を付ける取引を反復継続して行ったり、複数日にわたって高値(安値)を付ける行為を繰り返したりするような取引のことをいいます。
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(8)風説の流布・偽計
有価証券の募集、売り出し、売買、相場変動などを図る目的で、根拠のないうわさや風評などを不特定または多数の人へ伝達する行為です。
たとえば、自ら保有する株式を高値で売却する目的で、インターネット掲示板などに虚偽の情報を掲載し、それを見た一般の投資家が判断を誤り株式の購入をしたことによって株価が上昇したところで株式を売却し、不当な利益を得るような行為です。
また、有価証券の募集、売り出し、売買その他の取引などのため、または有価証券の相場変動を図る目的で、他人を錯誤に陥れる詐欺的な手段を用いることは「偽計」として禁止されています。
2、相場操縦で問われうる罪と刑罰
相場操縦取引を行った場合には、以下のような罪に問われる可能性があります。
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(1)金融商品取引法違反(刑事罰)
相場操縦取引を行った場合には、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはこれらが併科されます(金融商品取引法197条1項5号)。
また、財産上の利益を得る目的で相場操縦行為によって相場を変動または固定させ、その相場によって取引を行った場合には、10年以下の懲役および3000万円以下の罰金に処せられます(金融商品取引法197条2項)。
さらに、法人が相場操縦取引に関与した場合には、法人関係者個人だけではなく、その法人に対しても7億円以下の罰金が科されます(金融商品取引法207条1項1号)。
なお、相場操縦取引によって財産を得た場合には、当該財産は没収されます(金融商品取引法198条の2)。 -
(2)課徴金制度
課徴金制度とは、相場操縦取引などの違反行為をした者に対して、刑事罰とは別の行政上の措置として金銭的負担を課す制度のことをいいます。
相場操縦取引が行われている疑いがある場合には、証券取引等監視委員会が調査を行います。その結果、課徴金の対象となる法令違反行為が認められる場合には、内閣総理大臣および金融庁長官に対して勧告を行います。
これを受けて、金融庁長官は、審判手続開始決定を行い、審判官が審判手続きを経たうえで課徴金納付命令決定案を作成して、金融庁長官に提出します。金融庁長官は、課徴金納付命令決定案に基づいて、課徴金納付命令の決定を行います。
3、その他、禁止されている行為(インサイダー取引)
インサイダー取引とは、上場会社の役員などの関係者が、その特別な立場を利用して知り得た会社の重要な内部情報を利用して、その情報が公表される前に当該会社の株式の売買を行うことによって不正な利益を得る取引のことをいいます。
このようなインサイダー取引が行われると、一般投資家との間で不公平が生じて、証券市場の信頼性が大きく損なわれることになりますので、不公正取引として禁止されています。
なお、会社関係者から未公表の重要事実の伝達を受けた人もインサイダー取引規制の対象となりますので、家族や友人から聞いて知った情報を利用して株式の売買を行った場合にもインサイダー取引として規制されます。
インサイダー取引を行った際は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金が科せられるか、これらが併科されます(金融商品取引法197条の2)。
4、取引に不安があれば弁護士に早期の相談を
株式の取引にあたって不安なことがある場合には、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)相場操縦取引にあたらないかの判断
相場操縦取引の規制は、個人の投資家に対しても適用されますので、大量かつ頻繁に売買注文の発注・取消・訂正を行っていた場合には、相場操縦取引の疑いをかけられてしまう可能性があります。
相場操縦取引に該当するかどうかは、一義的に判断することはできず、発注量や反復回数などを総合考慮して判断する必要があります。そのため、どのような行為類型が相場操縦取引に該当するかについては、金融商品取引法に関する正確な知識と理解がなければ判断できませんので、一般の投資家の方では適切に判断することが難しいといえます。
ご自身が行おうとしている取引が相場操縦取引に該当しないようにするためにも、少しでも不安がある場合には、弁護士に相談し助言をもらうとよいでしょう。 -
(2)相場操縦取引の疑いをかけられた場合の対応
相場操縦取引の疑いをかけられた場合には、証券取引等監視委員会や捜査機関から調査(捜査)を受けることになります。
金融商品取引法違反の事件は、一般の刑事事件とは異なり、証券取引等監視委員会が捜査に関与するという特徴があり、証券取引等監視委員会による捜査によって事件の枠組みがある程度決められてしまいます。
そのため、相場操縦取引の疑いをかけられた場合には、証券取引等監視委員会による捜査段階から適切に対応することが重要となりますので、早期に弁護士に相談をするようにしましょう。
5、まとめ
相場操縦取引は、法人だけでなく個人の投資家であっても関与してしまう可能性のある行為です。相場操縦取引を行ってしまった場合には、刑事罰以外にも課徴金という行政処分が下される可能性がありますので、株式などの取引を行う際には、十分に注意して行う必要があります。
不正行為をしてしまったかもしれない、相場操縦の疑いをかけられてしまった等でお困りの場合は、お早めにベリーベスト法律事務所 水戸オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています