警察の取り調べは怖い? ひどい? 尋問の詳細と適切な対応方法
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令和6年6月、警察官を名乗る人物からかけられた虚偽の電話をきっかけとした詐欺事件が水戸市内で発生しました。警察から「あなたに犯罪の容疑がかかっている」と連絡が来たら誰でも動揺してしまうことでしょう。その理由のひとつに「警察官の取り調べは怖い」「ひどいめにあう」という印象があるからかもしれません。
本コラムでは、警察では暴力・脅し・圧力などを用いたひどい取り調べを受けるのではないかと恐怖を感じている方が知っておくべき対応方法、尋問の実情や対応方法などについて、刑事事件についての知見が豊富なベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説します。
1、警察の取り調べは怖い? 実際に行われている尋問の内容
警察が犯罪の容疑者などに尋問し、事実を確認するのが「取り調べ」です。「事情聴取」と呼ばれることがあるようですが、法律などにおいては「取調べ」と表記されます。ドラマなどフィクションの世界でもたびたび登場するので、大まかなイメージは描けるはずですが、実際に警察の取り調べを受けた経験がある方は少ないでしょう。
狭くて暗い取調室から出してもらえない、何時間も監禁状態になるといった描写も多いので、恐怖を感じてしまうのも当然です。
まずは、警察による取り調べでは実際にどのようなことが行われているのかを確認していきます。
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(1)取り調べの種類
警察による取り調べには、大きくわけると次のような区別があります。
- 被疑者の取り調べ
犯罪の容疑がある者に対して事実を追及するために行われる取り調べです。「取り調べ」といえば、一般的にはこちらを指します。 - 参考人の取り調べ
犯罪の被害者や目撃者、関係者など、事件に関する情報を聞き取るための取り調べです。法的には区別されていませんが、被疑者の取り調べと区別するために「事情聴取」と呼ばれています。ある程度の疑いがあるものの、まだ警察が確証を得ていない段階では事情聴取から始まるケースもめずらしくありません。
さらに、被疑者の取り調べには「任意」と「強制」の2種類があります。
- 任意の取り調べ
身柄拘束を伴わない「在宅事件」における取り調べです。任意なので、取り調べに応じる・応じないの選択は自由で、取り調べ途中の退出なども許されています。 - 強制の取り調べ
逮捕・勾留による身柄拘束を受けている状態の「身柄事件」における取り調べです。体調不良などの理由があれば当日の取り調べ拒否も可能ですが、基本的には取り調べに応じる「受忍義務」があるとされていますので、むやみな拒否は認められません。
- 被疑者の取り調べ
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(2)取り調べの場所
取り調べが行われるのは、警察署や交番といった警察施設に設備されている「取調室」です。
狭くて暗く、窓もない圧迫的な雰囲気の部屋で、デスクライトの電灯ひとつしかないというシチュエーションをイメージするかもしれませんが、実際には狭いながらも部屋の電灯を消すことはありません。
格子つきですが窓のある取調室もあります。また、取調室には、外から室内を確認できるように「透視窓」が設置されていますが、ドラマなどで登場するような壁一面のガラスではなく、ほとんどがのぞき窓くらいの小型のものです。 -
(3)取り調べの時間や回数
取り調べに要する時間や回数は、事件の内容や聴取する事項によって異なるので一定ではありません。
ただし、任意・強制の区別に関わらず、たとえ犯罪の容疑があって取り調べが行われるとしても、食事や睡眠といった当然の生活が侵されるのは不当です。
1日を通じた取り調べでも食事や用便のための休憩がはさまれるほか、深夜帯に現行犯逮捕されたなど特別な事情がない限り、午後10時から翌日の午前5時までの取り調べは認められません。
また、1日の取り調べ時間の上限は休憩を除いて8時間で、これを超える場合は警察幹部による事前承認が必要です。
これらのルールは、国家公安委員会による「被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則」や警察庁の「警察捜査における取調べ適正化指針」の定めに準じています。
不透明な警察捜査への批判が相次いだための適正化なので、旧来の体制と比べれば被疑者に対する取り調べを取り巻く環境は改善されているといえるでしょう。
2、取り調べの前に知っておくべき5つの権利と受けられるサポート
警察の取り調べを「怖い」と感じるのは、どんなことが行われるのか、どう対応すればよいのかがわからないからです。
あらかじめ対応の方法がわかっていれば、恐怖は薄れるでしょう。取り調べを受ける前に知っておきたい対応方法を確認していきます。
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(1)任意の取り調べは拒否できる
任意の取り調べに応じるかどうかは、容疑をかけられている本人の意思次第です。
たとえば「今すぐに警察署に来てほしい」と求められても、仕事や家庭の事情などによっては応じられないこともあるでしょう。
取り調べに応じられない場合は、拒否しても問題はありません。ただし、なぜ取り調べに応じられないのか、いつなら応じられるのかといった説明を尽くさないまま何度も拒否を続けていると「正当な理由なく出頭を拒んだ」と評価され、逮捕されてしまう危険が高まるので要注意です。 -
(2)供述人には「黙秘権」がある
取り調べを受ける被疑者には「黙秘権」が認められています。自分の意思に反して供述する必要はないので、取調官の質問に対して一切口を開かないことも、部分的に「その質問には答えられない」と拒否することも可能です。
なお、参考人は供述によって自分の刑事処分に関する不利益をまねくことのない立場なので、黙秘権の保護を受けません。
ただし、参考人の立場はそもそも任意で、無理に供述をする義務はありませんから、黙秘や供述拒否は可能です。 -
(3)取り調べでうそをついても罪には問われない
自分にとって都合の悪い質問を受けたときにうそをついても、それ自体が罪になることはありません。
刑法には「偽証罪」という犯罪がありますが、これは裁判の場で宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときに適用される犯罪なので、取り調べとは無関係です。
もっとも、あえてうそをつけば、逃亡や罪証隠滅が疑われて逮捕の危険性が高まったり、供述の信用性が低くなって裁判で不利になったりすることも考えられますので、注意しましょう。 -
(4)納得できない供述調書には署名・押印しない
取り調べの内容は「供述調書」という書面に録取されます。供述調書とは、供述人が話した内容を警察官がまとめて「私が知っていることをお話しします」という一人称の体裁で作成する文書です。
供述調書が完成した際は、必ず読み聞かせが行われたうえで閲覧の機会が与えられます。
ここで「私が述べた内容とは異なる」という点がある場合は、その場で指摘して訂正を求めましょう。
訂正に応じてくれない、訂正してくれたがやはり納得できる内容ではないといった場合は、供述調書への署名・押印を拒否することも考えましょう。署名・押印を拒否することは法的に自由ですし、署名押印がなければ、原則、その調書が裁判で証拠として採用されることはありません。 -
(5)任意の取り調べを録音することは違法?
任意段階の取り調べでは、取り調べ状況の録音を禁止する法律はありませんので、録音は違法ではありません。
ただし「録音してもよいか?」と許可を求めても、取調官は捜査の秘密などを理由に認めない可能性が高く、取り調べの途中で録音に気付けば止められる可能性が高いでしょう。
令和元年には「取り調べの可視化」に向けて刑事訴訟法の改正が施行されましたが、取り調べのすべてが録音・録画されるのは一部の重大事件に限られており、しかも任意の取り調べは対象外です。
取調室でのやり取りは「密室でのできごと」であり、取調官の違法行為があっても追及するのは難しいので、録音が唯一の証拠となる可能性もあるでしょう。 -
(6)弁護士の同席は難しいが同行は可能
取り調べへの弁護士による同席は、ほとんどのケースで拒否されてしまいます。
ただし、弁護士が警察署などに同行して、取り調べ中に室外や署外で待機していることは可能なので、対応に迷ったら休憩を申し立てて待機している弁護士に相談し、アドバイスを受けるといった対策も有効です。
お問い合わせください。
3、警察官が怖い! 暴力・暴言・脅しを受けた場合はどうする?
ドラマなどで登場する取り調べでは、横暴な警察官による暴力・暴言・脅しを受けて、無理やりに供述を強いられる描写が多いので、警察官に対する恐怖を感じている方も少なくないでしょう。
実際に、乱暴な取り調べが行われることはあるのでしょうか?
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(1)乱暴な取り調べが行われている実例もある
あるまじき話ですが、近年においても、暴力や暴言などを用いた取り調べが存在しました。
平成27年、車に石をぶつけた行為によって器物損壊容疑をかけられた男性に対する取り調べにおいて、警察官が「逮捕されるぞ」「なめてるのか」などと大声をあげて脅した事例がありました。容疑をかけられて取り調べを受けた男性は、事件後に恐怖から不安抑うつ状態に陥っています。 -
(2)違法な取り調べを受けた場合の対応
国家公安委員会の「被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則」では、被疑者の取り調べに携わる警察官による身体への接触や直接・間接の有形力の行使、不安や困惑をまねく言動などを「監督対象行為」としています。
ただし、この規則では、監督対象行為にあたったとしても取り調べ中止などの措置が講じられるだけで、取調官が処罰されるわけではありません。
では、乱暴な取り調べをした警察官は責任追及されないのかといえば、それは間違いです。
警察官がその職務を行うにあたって被疑者などに暴行・凌辱・加虐の行為をしたときは、刑法第195条1項の「特別公務員暴行陵虐罪」に問われます。法定刑は7年以下の懲役または禁錮です。
また、この行為によって相手を死傷させた場合は同法第196条の「特別公務員暴行陵虐致死傷罪」が成立し、怪我をさせた場合は15年以下の懲役、死亡させた場合は3年以上の有期懲役が科せられます。
許されざる犯罪行為ですが、被害届の提出先がまさに加害者側であり、被害届を提出しても握りつぶされてしまうかもしれません。
その場合、「刑事告訴」を検討する必要があるでしょう。刑事告訴であれば、いったん受理されれば、犯罪の疑いがある限りは警察側の都合で勝手に不受理にはできないので、刑事的な責任を追及できます。
加えて、国家賠償請求の裁判を起こせば、暴行や陵虐を受けた精神的苦痛に対する慰謝料や怪我の治療費などの損害賠償請求も可能です。
先に紹介した平成27年10月の事例でも、裁判所は「聴取の方法として合理的ではない」として違法性を認定し、さらに取り調べと不安抑うつ状態との因果関係を認めて、賠償を命じています。
4、取り調べに不安があるなら弁護士に相談を
警察による取り調べに不安を感じるのは当然です。これから取り調べに臨む事態になるなら、弁護士に相談して不安を解消しましょう。
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(1)取り調べに関するアドバイスが得られる
警察による取り調べに対して「怖い」と感じるのは、どのように取り調べが進められるのか、厳しい追及や不当な扱いに対してどのような対抗策があるのかなどがわからないからです。
数多くの刑事事件の経験をもつ弁護士に相談すれば、取り調べに関するさまざまな情報や知識を得られます。
事件の内容からどのように供述するのが最善なのか、黙秘権を行使したときにどんな圧力をかけられるのかなどを想定し、取り調べを仮想した練習を重ねることで、不安に押しつぶされることなく対応できるようになるでしょう。 -
(2)違法な取り調べに対する対抗が可能
取調官が暴力や暴言などをはたらいた場合は、特別公務員暴行陵虐罪としての刑事告訴や国家賠償請求訴訟による刑事・民事の両面での責任追及が可能です。
しかし、自分が犯罪の容疑をかけられながら、刑事告訴や訴訟の用意を進めるのは簡単なことではありません。弁護士に相談すれば、取調官の違法行為の責任を追及するために必要な対応をまかせることが可能です。
5、まとめ
犯罪の容疑をかけられて事実の追及を受ける「取り調べ」について、恐怖心を抱くのは仕方のないことです。しかし、必要以上に恐れて萎縮していると、主張すべき事情を満足に述べられなかったり、違法行為を指摘できなかったりするおそれがあります。
恐れすぎた結果、正当な権利を主張できず過度に厳しい刑罰を科せられてしまう危険があるともいえます。ひとりで対応しようとするのではなく、まずは弁護士への相談でアドバイスを得て、不安を拭い去りましょう。刑事事件についての知見が豊富な弁護士であれば、適切なサポートが可能です。
警察の取り調べに「怖い」と感じているなら、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 水戸オフィスにご相談ください。弁護士とスタッフが一丸となり、事件解決に向けて力を尽くします。
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