ファスト映画を作ったら逮捕!? 問われる責任とは
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動画投稿サイト「You Tube(ユーチューブ)」には、エンターテインメント性が高いオリジナルの動画が数多く投稿されていますが、著作権侵害にあたる動画の投稿も少なくありません。なかでも、昨今、強く問題視されているのが「ファスト映画」です。
ファスト映画については、令和3年6月に男女3人が全国で初めて逮捕され、同年11月には3人にそれぞれ懲役・罰金を併科した有罪判決が言い渡されました。また茨城県警でも安易な行為をしないよう、呼びかけています。
一連の報道により「自分が投稿した動画も犯罪になり、逮捕されたり、刑罰を受けたりするのではないか?」と不安を感じる方もいるかもしれません。本コラムでは、ファスト映画の問題点やファスト映画を投稿した場合に問われる刑事・民事の責任について、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説します。
1、ファスト映画の意味と問題点
そもそも、ファスト映画とはどのようなものなのか確認しておきましょう。
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(1)ファスト映画とは
ファスト映画とは、映画作品のあらすじを紹介するかたちで編集された動画をいいます。
実際の映像を編集してナレーション・字幕などを添えたもので、おおむね10分ほどであらすじから結末までを紹介するのが一般的です。
製作会社や配給会社、DVDの販売元などが予告編やダイジェスト版といったかたちで配信している動画に近いイメージですが、あらすじ・結末までを紹介しており、いわゆるネタバレしているという点で大きく異なります。 -
(2)ファスト映画の問題点
ファスト映画を投稿しているのは、制作会社・配給会社・販売元といった権利者ではなく、一般ユーザーです。
映画の映像を使用した作品を配信する際は、権利者に対してライセンス料を支払ったうえで許諾を受ける必要がありますが、許諾を受けているファスト映画はほぼないといえるでしょう。
ファスト映画の投稿者は、映像を編集したうえでナレーション・字幕を追加しているため「引用として合法の範囲である」「自身の創作物である」という誤った認識をもっているようです。
映画などの海賊版対策をおこなう「コンテンツ海外流通促進機構(CODA)」は、令和3年6月時点で推計950億円にものぼる被害が発生しているという調査結果を公表しています。
本来は利益を得られるはずの権利者には収入が発生しないにもかかわらず、動画投稿者が広告料というかたちで収入を得ている構図が強く問題視されています。
2、ファスト映画を投稿した場合の刑事責任
ファスト映画は、映画作品などの著作物の権利を保護する著作権法に違反する存在です。
著作権法には罰則も規定されているため、違反行為は犯罪にあたると認識しておく必要があります。
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(1)著作権法違反になる
映画などの著作物は、すべて著作権による保護を受けています。
原則として、著作物を利用する権利は著作権者のみがもつものであり、著作権者の許諾を受けずにこれを利用すれば侵害行為となります。
ファスト映画が著作権法における侵害行為にあたるのかを考えるにあたって重要なのが“引用”の考え方です。
著作権法第32条1項は、公表された著作物について引用による利用を認めています。
ただし、引用は公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道・批評・研究、そのほか引用の目的上正当な範囲内でおこなわなければならないとしているため、無制限というわけではありません。
ファスト映画に関しては、諸説あるものの、引用箇所と自分の作品とを明瞭に区別しているとはいえないことや、引用と作品の主従を比較すると「引用される側」が主となっているといった観点から、正当な範囲内の引用とはいえないと考えるのが主流です。 -
(2)著作権法違反の刑事責任
著作権法に違反してファスト映画にあたる動画を作成しインターネットにアップロードすると、著作権法第119条1項の規定によって厳しい刑罰が科せられます。
罰則は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらの併科です。併科とは、複数の刑罰を併せて科すことを意味するため、懲役と罰金の両方が科せられるおそれがあります。
冒頭で紹介した事例では、主犯格の被告人に懲役2年(執行猶予4年)・罰金200万円の併科が言い渡され、残る2人も同様に懲役・罰金が併科されました。
3、ファスト映画を公開した場合の民事責任
ファスト映画を動画投稿サイトなどで公開すると、刑事責任だけでなく民事責任も負うことになります。
刑事責任と民事責任はまったく別のものです。高額の罰金を国に納付しても、侵害行為を受けた著作権者に支払われるわけではないので、依然として民事上の賠償責任は解消されないのです。以下より、ファスト映画を公開した際の、民事責任について解説します。
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(1)著作権侵害として損害賠償請求を受ける
侵害行為によって損害を被った著作権者には、次の2つの請求が認められています。
- 差止請求
- 損害賠償請求
差止請求とは、侵害行為の停止などを求めることをいいます。著作権侵害と認められる場合は、差止請求を受けると投稿した動画を削除しなければなりません。
損害賠償請求とは、侵害行為によって被った損害額を請求する権利です。ここで、ファスト映画のように動画を投稿して広告収入を得ていたようなケースでは、どのような方法で損害額を算定するのかという点が問題になります。
著作権侵害における損害額は著作権法第114条において推定方法が明示されており、次の3つのいずれかで算定されます。- 譲渡等数量×著作権者の単位数量あたりの利益額
- 侵害者の利益額
- ライセンス相当額
海賊版DVDソフトなどであれば損害額の算定は比較的容易ですが、ファスト映画のような動画コンテンツにおける算定は複雑です。
たとえば、ファスト映画は2時間前後の映画作品を10分程度に編集しているため、著作物全体を正規に視聴した際の料金に照らすのは妥当ではないと考えられます。
さらに、正規の動画コンテンツでは一度料金を支払えば1週間程度の利用が可能ですが、10分程度の動画に対してこの利用料金を基準にするのは不適切でしょう。
著作権侵害に対する損害賠償は高額になりやすい傾向があります。もしも、損害賠償を請求されたとしても、不適切な方法で損害額が算定されている可能性もありますので、請求額をうのみにせず、経験豊富な弁護士に相談して対応を任せるのが賢明です。 -
(2)高額の賠償を求められた事例
ファスト映画を作成・公開すると、著作権者から高額の損害賠償請求を受ける可能性があります。
軽い気持ちでファスト映画のナレーションを担当したアルバイト男性が、書類送検された結果、映画会社1社と1000万円超の賠償金を支払って和解した事例もあります。
このようなケースが話題に挙がる機会もあることから「著作権侵害の賠償金は高額になる」と考えがちですが、必ず著作権者の請求が認められるわけでもありません。
たとえば、ニュース報道の記事見出しを無断で使用されたとして新聞社が大手検索エンジン会社を訴えた事例では、6825万円の請求に対して裁判所が認めたのはわずか23万7741円でした。【知的財産高等裁判所 平成17年(ネ)第10049号】
もしファスト映画の製作に加担してしまった場合、侵害行為の成立は否定できないとしても、賠償額については減額できる可能性があると考えておきましょう。
4、自分が投稿した動画で不安を感じたときに取るべき行動
ファスト映画を作成・投稿した事実がある、または自分が作成・投稿した動画が著作権侵害にあたるのではないかと不安に感じたなら、ただちに弁護士に相談しましょう。
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(1)弁護士に相談してアドバイスを受ける
著作権法など知的財産権に関する法律の知識が深く、さまざまな事例を扱ってきた実績のある弁護士に相談すれば、実際に著作権侵害にあたるのかを正確に判断できるでしょう。
すでに著作権者から権利侵害を指摘されているなら、刑事事件や損害賠償請求に発展する危険性が高い状況です。弁護士に対応を任せて著作権者と和解できれば、逮捕や刑罰を受ける事態や民事訴訟で争う事態を回避できる可能性があります。
ただし、損害賠償請求については交渉による和解ではなく民事訴訟で争ったほうが賠償額の軽減を期待できるケースがあるのも事実です。とくに、高額の賠償金を請求されている場合は、先に挙げた判例のように大幅な減額が実現することもあります。
無用に重い負担を強いられる事態を避けるためにも、経験豊かな弁護士のサポートは欠かせません。 -
(2)違法な動画はただちに削除する
著作権侵害にあたる違法状態が長く続けば、刑事的には悪質と評価されやすく、損害額も高額になります。とくに、著作権者からの指摘を受けているのに動画を削除しなかった場合は、厳しい処分を受ける危険性が高まるでしょう。
ファスト映画が正規の引用と認められる可能性はきわめて低いので、弁護士に相談のうえで「著作権侵害にあたる」という判断を受けたら、ただちに動画を削除して違法状態を解消するべきです。
みずからの判断で違法状態を解消したという事実は、刑事責任・民事責任を評価する際にも有利な事情として扱われる可能性があります。
5、まとめ
「ファスト映画」を作成・公開すれば、著作権侵害として刑事責任・民事責任の両方を問われることになります。非常に重い刑罰が科せられるうえに高額の賠償金の支払いを求められるおそれがあるため、素早い解決が肝心です。
自分が作成・公開した動画が著作権侵害にあたり著作権者から指摘を受けている、ファスト映画にあたる動画を公開したが逮捕や刑罰の不安を感じているといったお悩みがあれば、知的財産事件・刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 水戸オフィスにご相談ください。
権利侵害にあたるのかの判断や取るべき対策について、アドバイスを提供したうえで、円満解決に向けて親身にサポートします。
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