みなし相続財産とは? 対象となる財産などを弁護士が解説
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- みなし相続財産
相続と税金は深い関わりがあります。
あまり税金について興味がなかった方でも、相続の機会に直面すると、いや応なしに税金のことを学ぶ必要に迫られるでしょう。相続は専門用語が飛び交う難しいものです。
本コラムでは、相続にまつわる概念のひとつである、「みなし相続財産」について、弁護士が解説します。
1、みなし相続財産とは?
みなし相続財産とは、いったいどのような相続財産なのでしょうか?
そもそも、相続財産とは、被相続人から引き継がれる、すべての財産のことをいいます。
現金、預貯金、有価証券、不動産、動産、その他の権利などのようなプラスの財産だけでなく、借金、ローン残債、買掛金、未納の税金など、マイナスの財産もすべて相続財産です。
これに対して、民法上は相続財産に当たらなくても、相続税法上で相続財産とみなされるのが「みなし相続財産」です。
みなし相続財産としてもっとも身近なものは、生命保険の保険金や死亡退職金でしょう。
これらは、相続財産ではありません。
ところが、現金をほとんど残さず生命保険の掛け金に投じていれば、大部分の財産に相続税が課税されないことになり、相続税の制度が公平性を欠くことになります。
そこで、厳密にみると相続財産ではない財産について、相続財産とみなし納税義務を課すのが、みなし相続財産なのです。
2、みなし相続財産の特徴
みなし相続財産には、通常の相続財産とは違った特徴があります。
ここでは、みなし相続財産の特徴について確認しておきましょう。
● 死後に生じる財産であることが多い
みなし相続財産と相続財産を分ける特徴のひとつが「死後に生じる財産であることが多い」という点です。
先ほど例に挙げた生命保険の保険金や死亡退職金は、被相続人が生前から所有している財産ではありません。
しかし、被相続人が死亡することで発生する、多額の金銭であるため、みなし相続財産として、相続税が課税対象となるのです。
生命保険金や死亡退職金は、生前から所有している財産ではないため相続税の対象ではないと勘違いしている方も多いようですが、高額な相続税が課税されることがあるので注意が必要です。
● 非課税枠があるため節税対策になる
みなし相続財産には非課税枠が設けられているため、受け取った退職金や保険金の全額に相続税がかかるわけではありません。
どのくらい節税できるのか、ということについては第4章で解説します。
● 遺産分割の対象にならない
みなし相続財産は、基本的に遺産分割(被相続人の財産を、相続人で分けること)の対象になりません。
生命保険金は受取人が指定されているし、死亡退職金は遺族の生活を保障するためのものですから、受取人固有の権利として認められています。
被相続人が所有していた財産を相続によって分配するのではなく、そもそも「誰々が受け取るべきもの」という性質のものなので、遺産分割の対象にはならないのです。
ただし、受取人の指定が明確ではない場合においては、遺産分割協議によって法定相続人に分割されることがあります。
3、みなし相続財産の注意点
メリットも多いみなし相続財産ですが、いくつかの注意点がありますので、確認していきましょう。
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(1)みなし相続財産と相続放棄の関係
たとえば、故人が多額の借金を抱えていながら、保険金の給付も期待できるというケースでは「借金を継承したくないので相続放棄したいが、保険金も受け取れなくなるのでは?」と悩むでしょう。
実は、みなし相続財産は相続放棄をしていても受け取ることができます。
みなし相続財産は「受取人の固有の財産」ですから、相続放棄の影響を受けないのです。
ただし、相続放棄とは「最初から相続人ではない」という立場から相続を受けない手続きですから、法定相続人から除外され、みなし相続財産の非課税枠が使えなくなります。 -
(2)著しく不公平な場合は遺産分割の対象となる
みなし相続財産は、財産を継承した人が持つ固有の権利ですから、原則、遺産分割の対象となりません。
ただし、みなし相続財産を得た相続人と、他の相続人との間に著しい不公平があれば、特別に大きな利益を得ていると判断され、相続財産として計算すべきであるとして遺産分割の対象になった事例もあります。
たとえば、現金や不動産などの相続財産は一切ないのに、多額の保険金がひとりの相続人に支払われたとすれば、他の相続人と著しく不公平な状態になるため、遺産分割の対象になる可能性があります。
4、みなし相続財産の種類をチェック
どのような財産がみなし相続財産になるのでしょうか?
みなし相続財産の種類や内容をチェックしておきましょう。
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(1)契約などによって相続されるもの
みなし相続財産の代表例となるのが「契約などによって相続されるもの」です。
● 生命保険の保険金・共済金など
全てが相続税の課税対象となるわけではありません。契約者=被保険者=保険料負担者=被相続人であった場合、相続人が受け取った保険金等は、みなし相続財産となります。
なお、被保険者と保険料の負担者が異なり、保険料の負担者が保険金を受け取る場合は所得税が課税されます。
また、被保険者と保険料の負担者が異なり、さらに別人が保険金を受け取る場合には贈与税が課せられます。
● 死亡退職金
退職金や功労金は、本来、死亡した被相続人が受け取るはずだったものなので、死後3年以内に支払われると決まっている場合はみなし相続財産となります。
退職金の支払い方法を一括ではなく年金形式で月々支払われるように設定していた場合も同様です。
● 生命保険契約に関する権利
契約者=保険料負担者=被相続人であった場合は、「生命保険契約に関する権利」は被相続人の財産ですから、通常の相続財産と同様の扱いになります。
契約者≠保険料負担者で、保険事故が未だ発生していない保険契約の場合、被相続人が保険料を負担していれば、「生命保険契約に関する権利」は、みなし相続財産となります。
● 定期金に関する権利
年金などのように、一定期間または終身で定期的に給付されるものは「定期金」と呼ばれます。
相続開始時には、未だ定期金給付事由が発生していないという場合で、被相続人以外が契約者であるが、掛け金を負担していたのは被相続人という時は受け取り予定だった総額がみなし相続財産となります。
ただし、国民年金の遺族基礎年金・厚生年金の遺族厚生年金は相続税の課税の対象外です。 -
(2)遺言によって相続されるもの
みなし相続財産が発生する、もうひとつのパターンが「遺言によって相続されるもの」です。
● 特別縁故者への分与財産
法定相続人がいないの場合、内縁者や事実上の養子、生前に献身的な介護をしてきた人などの特別縁故者が家庭裁判所に申し立てをおこなうことで財産分与を受けられることがあります。
この場合、分与された財産はみなし相続財産となり、相続税の対象となります。
● 信託受益権
マンションなどの不動産を信託銀行などに信託し、家賃収入などの経済的利益を受け取ることを「信託受益権」と呼びます。
遺言によって信託受益権を得た場合、みなし相続財産となります。
● 低額譲り受けによる利益
不動産などを著しく低い価格で譲り受けた場合、財産の時価と実際に支払った価格との差額部分はみなし相続財産として扱われます。
なお、配偶者間であれば贈与税の配偶者控除を利用することで大幅な節税も可能です。
● 債務免除益等
対価を一切支払わず、または著しく低い対価で債務の免除(返済する借金の額を大幅に減額してもらうなど)を受けると、その利益分がみなし相続財産であるとして相続税の課税対象となります。
● その他の経済的利益
ここで挙げたもののほか、遺言によって生じた利益は、みなし相続財産として扱われる可能性があります。
● 公益法人等から受ける利益
遺言によって不動産を公益法人等に寄付した場合、一定の要件を満たして国税庁長官の承認を受ければ非課税となります。
ただし、公益法人側が相続人関係にあるなどの場合は、時価相当分がみなし相続財産となります。
5、みなし相続財産には、非課税限度枠がある
前項でみなし相続財産として扱われる財産の種類をみていきましたが、次の二つについては非課税枠が設けられています。
つまり、この二つについては、みなし相続財産といえども全額に相続税が課せられるのではなく、一定額が減額されて計算されるのです。
- 生命保険の保険金
- 死亡退職金
それぞれの非課税限度枠は、次の計算式で求められます。
ただし、保険金・死亡退職金の受取人に配偶者が指定されるため、現実的には全額が非課税限度枠に収まるケースが大半です。
6、まとめ
相続の機会に初めて耳にすることの多い「みなし相続財産」ですが、生命保険の保険金は「みなし相続財産」に該当する可能性があるため、意外にも多くの方に関係がある制度です。
ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスでは、相続に関するお悩みや不明などを、相続人さまに寄り添ってともに解決していきます。
どのような財産がみなし相続財産になるのかも正しく判断して、相続人さまが不利益を受けることがないよう、全力でサポートさせていただきます。
みなし相続財産についてお悩みやご不明がある方は、まずはベリーベスト法律事務所 水戸オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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