相続の放棄ができない!? 相続放棄ができないときの対処法を解説
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水戸市が公開している統計によると、令和元年に亡くなった方は2847人でした。水戸市内でも多くの相続が発生したことが予想されます。
相続は、親族間でのトラブルにつながることも少なくありません。親族間でトラブルになりたくない、遺産に負債があるなど何らかの理由によって遺産を相続したくないと考えた場合は、相続を放棄することが可能です。
しかし、相続放棄には民法で定められた期限や条件があり、相続の放棄を申述しても受理されないことがあります。
本コラムでは、相続放棄ができないかもと不安に思っている方へ、相続放棄ができなくなる理由や対処法があるのかを弁護士が解説します。
1、相続放棄の基本と手続の流れ
相続人が遺産を相続したくないときは、相続放棄という手続をします。まずは相続放棄についての理解を深めましょう。
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(1)相続放棄をすると相続人でなくなる
相続放棄は民法に定められた手続で、相続放棄を行うと法定相続人から除外されます。
法定相続人の順位は下記の通りです。なお、配偶者は必ず相続人となります。- 第一順位:子
- 第二順位:父母
- 第三順位:兄弟姉妹
相続放棄をすると、自動的に次の法定相続人に相続の権利が移ります。つまり、子が相続を放棄した場合は、第二順位である父母へ相続権が移るということです。そのため、不利益な情報がある場合は次の順位の相続人に伝えておくことが大切です。
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(2)相続放棄は自分に不利な相続を回避できる
相続といえば財産が手に入るイメージをする方が多いと思いますが、資産だけでなく負の遺産も相続します。したがって多額の借金をしている被相続人が亡くなった場合は、相続人が借金を分け合うことも考えられます。
相続を放棄すれば、自分にとって不利な債務を回避することできます。直接の債務はなくても多額の借金に対して連帯保証人になっているような場合も、相続放棄をした方が良いケースが多いでしょう。他には、保有している不動産が多く相続税の支払いが難しいといった場合も相続放棄するケースがあります。
なお相続放棄をする場合、一部の遺産だけを放棄することはできません。つまり、債務分は相続せず、財産になる遺産は相続をするといったことは原則できません。相続放棄をするときは、すべての遺産を放棄することになります。 -
(3)相続放棄の手続
相続放棄をする場合は、家庭裁判所に申立てを行います。これを相続の放棄の申述といいます。相続放棄の申述をするためには下記書類をそろえる必要があります。なお、申述人の立場によって、別途必要となる書類もあります。詳しくは、裁判所のホームページなどから確認することができます。
- 申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申し立てる人の戸籍謄本
- 自己の相続開始を証明するために必要なだけの戸籍謄本
- 800円の収入印紙
相続放棄ができなくなるのは主に、申述の期限を過ぎてしまった場合と単純承認してしまった場合です。続いて、相続放棄ができなくなるケースについて解説します。
2、相続放棄ができないケース:熟慮期間を過ぎてしまった場合
相続放棄で何よりも気をつけるべきは、熟慮期間です。
相続放棄には3か月以内に申述すべきというルールがあり、この3か月のことを熟慮期間といいます。熟慮期間を過ぎると相続放棄をすることが難しくなります。
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(1)熟慮期間の起算日
熟慮期間の3か月は、自己のための相続開始を知った日からカウントされます。そのため、自分が相続人であると気づいていなかったときや、被相続人が亡くなっていたと知らなかったときは、それらの事実を知ってからの3か月が熟慮期間となります。
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(2)期間伸長の申立て
熟慮期間のカウントがスタートするのは必ずしも被相続人が亡くなった日と限りませんが、基本的には被相続人が亡くなってから3か月を期限と考えるべきでしょう。もし、被相続人の死亡から3か月以内に相続放棄を決断できないのであれば、家庭裁判所へ期間伸長の申立てを行います。
相続放棄の申述も期間伸長の申立ても、提出書類は同じです。戸籍謄本を集める手間を考え、早めに着手することが望ましいでしょう。 -
(3)熟慮期間経過後の相続放棄が認められる場合とは
熟慮期間を過ぎた場合、相続放棄はできないのが原則です。しかし、熟慮期間までにどうしても相続放棄が間に合わなかった事情がある場合に限り、相続放棄の申述が受理される可能性があります。ただし、相続放棄を例外的に認めるにたるだけの理由が必要です。
たとえば、下記のようなケースにおいては、熟慮期間が過ぎた後の相続放棄が認められる可能性があります。- 被相続人に財産が全くないと信じていた
- 債務の存在を全く知らなかった
- 債務の存在を人間関係や生活状態から見つけるのが困難だった
- 自分が被相続人と血がつながっていることを知らなかった
- 遺産の相続を合意した後に、多額の債務が見つかった
- 被相続人の死を知らなかった
ただし、これらを合理的かつ法の観点をもって、証明しなければいけません。熟慮期間を過ぎてしまった後に相続放棄をしたい場合は、弁護士のサポートを受けることが得策でしょう。
3、相続放棄ができないケース:単純承認をした場合
相続放棄できない理由としてもうひとつあげられるのが、単純承認です。
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(1)単純承認とは?
単純承認とは相続を認めることで、正の遺産も負の遺産もすべて承認することになります。民法第921条では、次のような場合において、相続人が単純承認をしたものとみなすことを規定しています。
- 相続財産の全部または一部を処分した
- 相続放棄せずに熟慮期間が過ぎるまで放置した
- 相続放棄をした後に財産を隠したり消費したりした
単純承認した場合は、相続放棄はできません。
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(2)単純承認にあたると考えられる行為
単純承認したとみなされないためには、財産の一切の処分はしてはいけません。
相続財産は相続開始をもって相続人の共有となります。よって相続財産を処分するということは、それが自己の財産であると認めたのも同然です。一部の財産に手をつけたことで多額の債務を相続する事態に陥る可能性もあります。 -
(3)単純承認にあたらないと考えられる行為
財産の処分はできませんが、保存行為は認められています。
たとえば、建物を修理することは財産の現状維持ですから、これを理由に相続放棄が無効になる可能性は低いでしょう。また、葬式費用を相続財産でまかなうことも単純承認の理由になりませんが、必要以上に豪華なお葬式をした場合はその限りといえません。
4、相続の放棄を弁護士に依頼した方が良い理由
相続放棄をしたい、相続放棄ができないといった状況の場合は、少しでも早く法律のプロである弁護士に相談することがおすすめです。
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(1)相続放棄をすべきか、的確なアドバイスがもられる
相続放棄は、一度受理されてしまうと撤回することはできません。
そのため、本当に相続を放棄した方が良いのか、債務がどのくらいあるのか、プラスとなる財産がないのかなど、しっかりと調査することが大切です。
相続放棄には、前述したように3か月間という期間が定められています。余裕がない状況では、資産と負債の比較をじっくりと行うのは難しいことが少なくありません。弁護士に財産の調査を一任すれば、手を煩わせることなく故人の財産状況が明確になります。
財産を整理した結果、相続放棄をするべきなのか、別の相続の方法を検討できないのかといったアドバイスを受けることができるので、不利益の少ない相続を検討することができます。 -
(2)相続放棄以外の手続も相談できる
相続放棄以外にも相続についての法律問題があれば、弁護士にまとめて相談できます。たとえば死亡保険金の受け取りや生前贈与された財産の処理、代襲相続などがあげられます。
5、まとめ
もし、故人が多額の債務を抱えていた場合、相続放棄をしないと負債をそのまま引き受けることになってしまいます。ところが、被相続人が亡くなって初めて負債の存在を知ることも少なくありません。熟慮期間である3か月という短い期間で、すべての遺産を確認し、手続を進めることは大きな負担になるでしょう。また、相続放棄するためには、的確な手続が必要です。少しのミスで相続放棄ができなくなり、多額の負債を背負い込む可能性もあるのです。
相続放棄ができない、相続放棄をしたいけれどどうして良いかわからないといった場合は、一度弁護士へ相談することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスでは、相続問題の対応実績が豊富な弁護士が、親身にお話を伺ったうえでそれぞれケースに合わせてアドバイスします。土曜日の来所相談も受け付けておりますので、まずはご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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