生命保険は特別受益になる? 特別受益になるケースと遺産分割の考え方
- 遺産を受け取る方
- 特別受益
- 生命保険
水戸市が公表している人口動態に関する統計資料によると、令和3年の死亡者数は、3000人でした。死亡者数は、年々増加しており、3000人以上となるのは、統計資料のある平成17年以降初めてです。
被相続人が生命保険に加入し、受取人を相続人に指定していた場合には、被相続人の死亡によって相続人が生命保険の死亡保険金を受け取ることになります。このような死亡保険金は、原則として相続財産には含まれませんので、遺産分割の対象にはなりません。
しかし、例外的に、生命保険の死亡保険金が特別受益にあたると判断される場合には、持ち戻し(相続財産に含まれてしまう)の対象になることもあります。今回は、生命保険の死亡保険金と特別受益の関係について、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスの弁護士が解説します。
1、生命保険は特別受益になるのか
生命保険の死亡保険金は、遺産相続においてどのように扱われるのでしょうか。以下では、生命保険の死亡保険金と特別受益の関係について説明します。
-
(1)特別受益とは
特別受益とは、生前贈与などによって相続人が得た、特別な利益のことをいいます。
特別受益の対象となるのは、「相続人」に限られますので、被相続人が相続人以外の第三者に生前贈与をしたとしても特別受益に該当することはありません。
また、生前贈与などの利益を受ければすべて特別受益に該当するというわけではなく、「特別な利益」を受けたといえることが必要になります。
具体的には、以下のようなものが特別受益にあたります。① 遺贈
遺贈とは、遺言によって財産を他人に与える行為をいいます。相続人に対してなされた遺贈については、すべてのものが特別受益に該当します。
② 死因贈与
死因贈与とは、被相続人が死亡したときに他人に財産を贈与するという契約です。相続人に対してなされた死因贈与については、すべてのものが特別受益に該当します。
③ 生前贈与
生前贈与とは、被相続人が生前に財産を他人に贈与するという契約です。生前贈与のうち以下の3つのいずれかに該当する贈与が特別受益として扱われます。
- 婚姻のための贈与
- 養子縁組のための贈与
- 生計の資本としての贈与
-
(2)生命保険は原則として特別受益にはならない
被相続人の死亡によって、相続人が生命保険の死亡保険金を受け取ることになった場合には、相続人は多額の利益を得ることになりますので、生命保険の死亡保険金が特別受益にあたるかどうかが問題になります。
生命保険の死亡保険金は、被相続人の死亡によって支払われるお金ですので、被相続人の死亡によって相続する相続財産と共通する部分があります。
しかし、相続財産は、被相続人自身の財産ですが、生命保険の死亡保険金は保険会社から支払われるものであり、保険金受取人に指定された相続人固有の財産という違いがあります。そのため、生命保険の死亡保険金は、相続財産には含まれませんので、原則として特別受益に該当することもありません。
なお、遺産分割の場面では、死亡保険金は相続財産から除外されますが、相続税の申告の場面ではみなし相続財産として相続財産に含めて考えることになりますので注意が必要です。
2、生命保険が特別受益になる可能性がある場合とは
生命保険の死亡保険金は、原則として特別受益にはなりませんが、例外的に特別受益として扱われるケースもあります。以下では、死亡保険金が、どのようなケースにおいて特別受益にあたるのかを説明します。
-
(1)生命保険が特別受益になる場合
生命保険の死亡保険金が特別受益にあたるかどうかが争われた事案において、裁判所は、以下のような条件を挙げて、著しい不公平が生じる場合には死亡保険金が特別受益に該当することもあると判断しました(最高裁平成16年10月29日判決)。
- 生命保険金の金額
- 生命保険金の遺産総額に対する比率
- 生命保険金の受取人である相続人及び他の相続人と被相続人との関係
- 各相続人の生活実態
そのため、上記の諸要素を総合考慮した結果、共同相続人間に著しい不公平が生じる場合には、例外的に生命保険の死亡保険金が特別受益に該当する可能性があります。
-
(2)生命保険が特別受益にあたると判断された事例
では、具体的にどのような事情があれば「著しい不公平が生じる」と判断されるのでしょうか。
以下では、生命保険の死亡保険金が特別受益に該当するかどうかが争われた裁判例を紹介します。① 東京高等裁判所 平成17年10月27日決定
死亡生命保険金の受取人は、被相続人の妻とされていましたが、妻が先に死亡したため、被相続人の子どものうちの1人が死亡生命保険の受取人になりました。
そして、被相続人の死亡によって、巨額の生命保険金を得たという事案で、裁判所は、死亡生命保険金の特別受益該当性を認めました。
生命保険金が遺産総額に占める割合が非常に大きい事案ですが、それ以外にも受取人を変更した当時、被相続人と同居も介護もしていなかったという事情も考慮されています。
② 名古屋高等裁判所 平成18年3月27日決定
相続人は、妻(後妻)、長女、長男の3人で、妻が遺産総額の約61%にあたる生命保険金を得たという事案で、裁判所は、生命保険金の特別受益該当性を認めました。
特別受益だと認めた理由としては、生命保険金が遺産総額に占める割合(61%)が多額だったことが挙げられています。
3、生命保険と遺産分割の考え方
生命保険が特別受益として扱われる場合には、遺産分割において以下のような影響が生じます。
-
(1)特別受益の持ち戻しを行う
生命保険の死亡保険金が特別受益として扱われる場合には、当該特別受益を相続財産に持ち戻す必要があります。
持ち戻しとは、被相続人から生前に受けた特別受益を相続財産に加えて相続分の算定を行うことによって、相続人間の公平を図る制度です。
持ち戻しをすることによって、相続財産の総額が増えることになりますので、特別受益を受けた相続人以外の相続人は、相続分の増額という利益を得ることができます。
反対に、特別受益を受けた相続人は、自己の相続分から特別受益分が控除されることになりますので、相続できる遺産が減ることになってしまいます。 -
(2)特別受益がある場合│相続分の計算方法
では、特別受益がある場合には、具体的にどの程度相続に影響が生じるのでしょうか。
以下では、具体的な事例を挙げて特別受益がある際の相続分の計算方法を紹介します。- 相続人:妻、長男、二男
- 相続財産:3000万円
- 特別受益:妻が死亡保険金として1500万円を受け取る
このような事案では、特別受益の持ち戻しによって、相続財産の総額は、3000万円+1500万円=4500万円となります。
妻の法定相続分は2分の1、長男と二男は各4分の1ですので、各相続人が取得する遺産は、以下のとおりとなります。- 妻:4500万円×2分の1-1500万円=750万円
- 長男:4500万円×4分の1=1125万円
- 二男:4500万円×4分の1=1125万円
特別受益の持ち戻しがなかった場合、各相続人が取得する遺産は以下の金額になりますので、持ち戻しの有無によって各相続人の取得額が大きく異なることがわかります。
- 妻:3000万円×2分の1=1500万円
- 長男:3000万円×4分の1=750万円
- 二男:3000万円×4分の1=750万円
4、生命保険と遺産相続については弁護士に相談を
生命保険を利用することによって、相続財産とは別に相続人に死亡保険金を渡すことができたり、相続税が発生する場合の納税資金を確保することができたりするなどの理由から生命保険は相続対策として広く利用される手段です。
生命保険の死亡保険金は、原則として相続財産には含まれませんので、他の相続人の遺留分や特別受益の持ち戻しを考慮する必要はありませんので、有効な相続対策といえます。
しかし、今回解説したとおり、生命保険の死亡保険金の金額やその他の事情によっては、例外的に特別受益に含まれる可能性もあります。生命保険の死亡保険金は、金額も大きくなるため、特別受益に含めるかどうかによって、相続人が受け取ることができる具体的な相続分も大きく異なってきます。
そのため、高額な生命保険の死亡保険金がある場合には、それが特別受益に含まれるかどうかを適切に判断することが重要となります。
このような判断をするためには法的知識が必要不可欠となりますので、個人で判断が難しいという場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。遺産分割が成立した後では、特別受益に該当する可能性があるとしてもやり直しをすることはできません。相続開始後は、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
5、まとめ
特別受益に該当する遺贈、死因贈与、生前贈与については、相続財産への持ち戻しをすることによって公平な遺産分割を実現することが可能です。
生命保険の死亡保険金についても例外的に特別受益に該当するケースもありますので、高額な死亡保険金が支払われた事案では、特別受益該当性について弁護士に判断をしてもらうとよいでしょう。
遺産相続の問題でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 水戸オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています